ひなたぼっこ | ナノ


▽ 渋いお茶二つ

「あたしも異世界から来てんねん」


その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。異世界。わたしのいた所ですか。それとも違う所ですか。いつからここにいるんですか。聞きたいことが多すぎて混乱する。やっと搾り出せた言葉は、


「どうしてわたしに言ったんですか」


だった。茜さんはちゃんと待ってくれて、お茶を啜ってから口を開いた。


「…ドクタケ城で、ドクタケ忍者があんたの話しとったのを聞いてな。これはあかん!って逃げる手助けしよ思ったんよ。んでえりか見た瞬間にピンと来たんや。ここの人間ちゃう、ってな」
「何で、」
「すまんがそれはわからへん。勘とはちゃうねん。でも何か、あたしと同じやって思ったんや。曖昧ですまんなぁ」
「え、いえ!」


わたしは冷めたお茶を一口口に含んだ。漸く落ち着いてきて、言っていることも理解できる。


「あたしな、十歳の時ここに来てん。忍たまはテレビでよう観てたから知ってたんやけどな、ここが忍たまの世界だって理解したのは割と最近やねん」
「十歳…」
「おん。その頃っちゅーとまだ風魔どころか上級生も出ておらへんかった。気付いたら山ん中におってな、そこに通りかかったのが風魔流忍術学校の山野金太先生や。先生のお世話になりながら風魔に通って今は風魔の学校の教師やってんねん」
「教師ですか!?あ…でも、何でその話をわたしに…」
「おお、珍しくべらべら喋っとったわ」


はは、と笑いながら言っているけど、張り詰めた空気は変わらない。このあと、何か大事なことを言われそうで恐い。留三郎くんや一年生はわたし達に気付いていないようで、楽しそうに盛り上がっている。


「あんな、今あたしが言ったのは、全部過去のことやねん。でもあたし達は未来から来たようなモンやん?おかしいと思わへん?」
「…?」
「あたしな、もう一つ過去持ってんねん。こっちは言えへんけど」
「過去、が?」
「まあこれの意味はいずれわかる時が来るはずや。あんたの選択次第やけどな」


選択、次第。何の選択なのか、いつそれを選ぶのかわからない。でも、とても大切で重大なことなのかは伝わってきた。


「暗くなってしもたなぁ。でも同じとこから来た子がいるって知った時は嬉しかったんよ!こっちに来てどれくらいなん?」
「二ヶ月くらい…ですかね?」
「おお、タイミング的にぴったりやな…二ヶ月か…」
「え?」
「いや、何でもあらへん。せや、これだけ覚えてて、」

「あんたは一人やない。何を選んでも、後悔することは絶対あかん。自分の気持ちに素直になれば、自ずと見えるはずや」


茜さんの瞳は真っすぐわたしを射抜く。決意したような瞳。わたしも、その決意を見出だす瞬間が来るのだろうか。


「……なーんてな。一つやあらへんかったなー!」
「……ですね。でもわたし、頑張ります」


何を頑張るのかわからないけど。茜さんは優しく頭を撫でてくれた。なぜかそれだけで嬉しかった。


「……おん」


すっかり冷めたお茶を二人で飲み干して、そろそろ他のお客さんに迷惑になるくらい賑やかに騒ぐ年下達の所に入った。


渋いお茶二つ



***
似非関西弁すみませんでした。ツッコミ所満載だと思いますが、スルーして頂きますようお願いします。
100821

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