ひなたぼっこ | ナノ


▽ 回り始める

活気盛ん。初めて見るこちらの町はわたしには輝いて見えた。忙しなく小型の箱を片手に歩く現代の都会よりも断然楽しそうで、自然と口元が緩んだ。


「えりかさんこっち!」
「おおう」


喜三太くんとしんべヱくんに手を引かれ案内される。おいしい甘味屋が今日の目的地らしいし、大人しく着いていく。すると突然きり丸くんの名前が呼ばれた。


「あ、八百屋のおっちゃん!」
「よおきり丸!今時間ないか?急にどうしても抜けなきゃなんねえ用事ができちまってな…。すぐ戻って来るからよ!」
「バイト?」
「ああ。バイト代は弾むからよ、なっ!?」
「でも…」
「いいんじゃない?」
「えりかさん?」


勝手に口が動いていた。仕方ない、わたしが言うのもなんだけど、すぐ戻って来るならそれくらい。時間はたくさんあることだし。


「…前から思ってたけど、えりかさんってお人よしだよね」
「んー、そうかも。あ、何なら先に甘味屋に…」
「ダメですよ!えりかさんがいなくちゃ始まりません!」
「僕たちもやります!」
「俺もな」


我が儘に付き合わせちゃってごめんね、そう言えばじゃあ次は真っすぐに甘味屋に行きましょうね、と言われてしまった。


**********


さすがきり丸くん、お客さんの対応が上手い。他の一年生も何だかんだで上手く呼び寄せている。留三郎くんと言えば、女性受けがよくて若い奥様から貫禄のある奥様まで囲まれている。わたしも負けてはいられない、と道に出る。


「新鮮なお野菜はいかがですかー!お味噌汁やお浸しなど幅広く使えますよー!」
「あ、人参安い…」
「いらっしゃいませ!」
「んー…、ん?」
「?」
「……あれ、えりか…?」
「、え?」


美人なお姉さん。でもわたし町に来たのは初めてだし、学園でも見たことなかった気がする。


「え、っと…」
「あ、あー…、そうやん…あの時暗くて見えへんかったか…うーん…」
「(関西弁…って…)…茜、さん?」


ドクタケの事件以来会っていなかった茜さん。関西弁はここら辺じゃ珍しいから、もしかしてと思って名前を呼んでみた。どうやら合っていたらしい。


「せや!覚えててくれたんかー、嬉しいわー!」
「や、やっぱり茜さんですか!?」
「おん!忍たま達が迎えに来てたのは知っとってん、無事でよかったわ」
「あの時は助けて頂いたのに、お礼も言わずにすみません…」
「ええねん。何の連絡もせぇへんかったあたしも悪いし」


にっこり笑う茜さんは大人で、思わず見惚れてしまった。後ろから聞こえた茜さんの名前を呼ぶ声にはっと意識を戻した。あれ、留三郎くんはきり丸くんの隣で接客してるし、そもそも知り合い?


「おめー勝手にいくなっちゅーとー…」
「あ、忘れとったわ。堪忍なー」
「おめーなあ…ん?」
「あ、与四郎先輩!」
「おー、喜三太じゃねーか!いさしかぶりだべなー」


やっぱり錫高野与四郎くんだ。近くで見ると本当に留三郎くんそっくり。



**********



バイト代を受け取り人気の甘味屋に入った。平太くんが留三郎くんの膝の上、喜三太くんが与四郎くんの膝の上に座っていて、端から見れば兄弟のような微笑ましい非常に萌える光景である。けしからん。茜さんと与四郎くんは学園長に用があったらしく、町を通った所偶然わたしと遭遇したわけだ。


「何か一緒にすまへんなぁ」
「大勢で食べた方が楽しいですよ。喜三太も喜んでますし」
「おおきに。ほんま、食満くんはうちの与四郎に似とるなあ」
「はは…」


たわいない会話が続き、お茶に舌鼓をうっていると、ちょいちょいと茜さんに小袖の袖を引かれた。ちょっと、と言われ皆から少し離れた席に座る。


「あんな、違ったら否定してくれてええねん。でもそうだったら、素直にあたしの話を聞いて欲しい」
「え、はい?」
「あたしの質問に、素直に答えてな」
「は、はい」


急に畏まった茜さんに思わずたじろぐ。真剣な瞳から目が逸らせない。


「えりか、あんた異世界から来たやろ」


びくりと身体が震えたのがわかった。何で、茜さんが知ってるの。どうして、あの時初めて会ったのに、一部の人しか知らないのに。ぐるぐるとする思考に、質問する前の茜さんの言葉を思い出す。


「……は、い」
「…ん、そっか。それを確認したかったんよ。変なこと聞いてしもたな」
「…茜さんは、どうして」


そのことを知ってるんですか、という言葉は茜さんの悲しげな、複雑そうな顔を見て喉に止まった。


「あんな、」

「あたしも異世界から来てんねん」


世界が止まった気がした。


回り始める

***
訛りわからない…
100821

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -