ひなたぼっこ | ナノ


▽ 道中の距離

「食満くんっ!」


門に向かえば既に食満くんとしんべヱくん、喜三太くん、平太くん、そしてきり丸くんがいた。用具委員会の三人はわかるけど、きり丸くんはどういう関係だろう。わたしに気づくと一年生がわっと周りに寄ってきた。


「えりかさんこんにちはーっ!わあっ、えりかさん化粧してる!」
「ホントだ!きれい!」
「や、やだなあ、そんなことないよ。喜八郎くんが上手いからだよ」
「綾部先輩にやってもらったんですか?」
「うん。小袖も綾部くんから借りたの」


食満くんの所まで行き、待たせてごめんねと言うと今来た所ですから、と返された。まるで彼氏みたいな台詞に男らしさを感じて眩暈がした(イケメン…)。出門票に名前を書き学園を出る。ちなみにきり丸くんは、少し前に子犬の件で町に行く約束をしていたかららしい(20話参照)。そういえばそんなこともあったな。一年生の皆はわいわいと楽しげに前を歩く。わたしと食満くんはその後ろを並んで歩く。


「食満くん、誘ってくれてありがとう」
「何だ、改まって」
「ううん。ただ、言いたかったの」
「……そうか」


食満くんはわたしが異世界から来たのを知っているからか、ほっとしたようだ。そういう気遣いもできて、なんていい子なんだろう。絶対いいお父さんになるよね。あまりしっかりした小袖や草履は慣れていなくて、やはりみんなより歩くのは遅くなってしまう。でもそれに気づいた食満くんが然り気なく歩幅を合わせてくれたのを知っているから、余計にどきどきしてしまった。どれくらい歩いたのか、周りの景色は幾分か変わってきた。町が見えてきた頃、食満くんが「あ、」と口を開いた。


「どうしたの?」
「あ、いや…あれだ…」
「?」
「……何で俺だけ名字なのか、と思って…」
「え、あ、そういえば」


確かに、六年生はみんな名前で呼んでいた(あの文次郎や仙ちゃんでさえ)。名前を呼ぶ機会が少なかったのと、失礼だが食満くんと呼ぶ方が楽だったからなのだが。


「俺も、名前でいいからさ」
「え、いいの?」
「ああ。何か文次郎に負けた気がしてならなかったんだ…」


名前を呼ぶだけなのに?わたしを張り合いのネタにしても得はないと思う。でも折角彼が申し出てくれたのだ、有り難く呼ばせてもらおう。


「わかった。じゃあそうさせてもらうね、留三郎くん」


そう言えば留三郎くんはにこりと笑ってわたしの頭をぽんぽんと叩いた。まるで子供扱いされてるようで複雑だったが、赤くなった耳を見て彼なりの照れ隠しだとわかったので、心がふわりと温かくなった。


道中の距離
(心と道と)


100724

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