ひなたぼっこ | ナノ


▽ お給料日

学園長先生に当然呼ばれて庵に向かえばちゃり、という音と共に小袋を渡された。問えば小銭という名の給料らしい。


「え、え!?駄目です頂けません!」
「なぜじゃ?ここに来てから大分経った。儂らは御主を正式に事務員として認めたのじゃ。それならば給料は当然だろう?」
「でも…わたしは居候なんですよ。食事と寝所があるだけで十分満足してるんです」
「しかし、それでは町にも行けんぞ?」
「お手伝いをしていれば行かなくとも平気ですよ」
「うーむ…」


学園長先生は唸りだした。わたしは頑として受け取るつもりはないからにこにこと学園長先生に向き合う。ここで忍術を習う彼らは授業料等を払ってここにいるのに、わたしは無一文だから勿論払っていない。なのに朝昼晩食事があり寝所もあるなんて贅沢すぎる。お手伝いや事務、雑用で済むのなら安い方だ。その上給料まで貰ったら申し訳なくて仕方ない。


「学園長先生」
「ん?誰じゃ」
「六年は組の食満留三郎です」
「うむ、入りなさい」


戸を開けたのは食満くんだった。目がぱちりと合うと、ここにいたんですか、と言われた。


「どうした?」
「いえ、うちの委員会の一年生が『えりかさんと町に行きたい』と言って聞かないもので、学園長先生の許可を得に来たのですが…」


それを聞いて学園長はわたしに向かってにやりと笑い、小銭の入った小袋を食満くんに差し出した(うわっ、何か悔しい!)。食満くんもタイミングいいんだから…。


「食満、これを使いなさい。えりかを連れて町を案内してあげなさい。余りは彼女に渡すんじゃよ」
「は、はあ…。ありがとうございます…?」
「…………」


下がっていいぞ、と言われたので二人で庵を後にする。食満くんはまだ意味がわからない顔をしていたから、さっきのことを軽く説明するとああ、と納得したように頷いた。


「えりかさん、ここに来てから二ヶ月近く経ったのに一度も出てないだろ?学園長なりの気遣いなんだよ」
「でも…(そういや無理矢理出たことはあるな)」
「気にしすぎ!いつかぶっ倒れるぞ!」
「うわわっ」


そう言いながら後輩にするようにわしゃわしゃと頭を撫でられた。髪がぐしゃぐしゃになったが、心が温かくなったから気にしない。こんなお兄ちゃん欲しいな(彼は年下だけど)。


「さ、支度しようぜ」
「うん。…あ、」
「どうした?」
「……わたし、服持ってないや」


今着ているのはユキちゃんから借りた桃色の忍装束。来た当初に借りていた小袖は洗濯して干している最中。くの一はこの間から野外実習でいない。


「俺のはサイズが合わないだろうしな…。あ、綾部」
「おやまあ。どうしたんですか、お二人でこんなところに」
「綾部こそ」
「僕は蛸壷を掘った帰りです。今日は早めに終わろうと思いまして」
「そうなんだ。ちゃんとお風呂に入るんだよ?」
「はい」
「……あ、綾部。お前の小袖貸してもらえないか?えりかさんに貸したいんだ」
「いいですけど…。なぜえりかさんが?」
「町に行きたいんだが彼女は小袖を持っていなくてな。お前なら身長もそう変わらないしいいだろ?」
「えりかさんなら…。あ、じゃあえりかさん来てください」
「え、あ!?」


会話文だけで物事が進んでいる。わたしは理解できないまま喜八郎くんに手を引かれて四年生の長屋まで連れていかれた。連れていかれる前に食満くんが「準備が終わったら正門な!」と言うのが聞こえた。一室に入ると滝夜叉丸くんが机に向かっていて、わたしがいるとわかると慌てだした。


「え、えりかさん!?どうしてここに…」
「滝、邪魔。出てって」
「はあ!?ちょっとまてなぜ私が出て行かねば…っておい!」
「滝夜叉丸くんごめんねーっ」


締め出されたあとも騒いでいたが諦めたのか、滝夜叉丸くんはどこかに行ってしまった(申し訳ない…)。喜八郎くんはさて、と言いながら可愛らしい小袖を取り出した。仄かな桃色に所々花の模様があしらわれていて、落ち着いた色合いだが女の子らしい。喜八郎くんによく合うと思った。


「これです。一人で着れますか?」
「うん。間違っていなければ大丈夫」
「じゃあ着たら呼んでくださいね」


それはここを使えってことかな。とりあえずこの一ヶ月でなんとか慣れた小袖の着方を実践。喜八郎くんを呼ぶと入ってきて、そこに座ってくださいと促した。大人しく従えばどうやら化粧をしてくれるらしい。化粧とかこっちに来てからは無縁だったし、されるのは初めてで恥ずかしい(変な顔してないかな)。


「できましたよ」
「ん…、わあ、凄い!わたしじゃないみたい…!」


手鏡を渡されて自分の顔を見れば自然なメイクだった。重くもないし、さすが作法委員会。


「喜八郎くん、ありがとう!」
「いいえ」


ふわりと笑顔を向けられて、不意打ちすぎて思わず鼻血が出る所だった(気合いで抑えた)。


「じゃあ行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃい」


行ってらっしゃい。久しぶりに言われた気がする。本当、わたしは幸せすぎて罰当たりだ。


お給料日

100718

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