▽ 救出
何が起きたのかわからなかった。何かに覆われて、恐らくドクタケ忍者の叫び声が聞こえた。手がわたしの肩を抱いている感覚があるから、庇われたのだろうか。その腕から解放されると、その人の顔が月に晒された。
「へ、いすけくん…?」
「えりかさん…!怪我はないか!?」
すぐに手首を掴まれ、擦った手の平を見られた。隠す隙もない。
「兵助!お前いきなり飛び出すなよっ!」
「ハチくんまで…」
「えりかさん!無事でよかった!」
「何で…」
「私たちもいますよ」
兵助くんの後ろから現れたのは五年生の面々。状況に着いていけずにいると、助けに来ました、と言いながら雷蔵くんはわたしの頭を撫でた。どうして、わたし何か。
「皆心配してたんですよ。遅くなってすみません」
「兵助なんか何も考えずに飛び出そうとしたんですよ」
「ちゃんと周りを見ろってな」
「う、うるさい!」
とても微笑ましいけど、わたしは今だに放心したままだった。すると突然近くの木に手裏剣が刺さった。ドクタケ忍者が騒ぎを聞き付け集まって来たらしい。
「っと、呑気に話してる場合じゃないな」
「そうだね。兵助とハチはえりかさんを連れて安全な所へ」
「いや、ここは我々が引き受けよう」
軽やかに目の前に現れたのは六年生。え、五年生だけじゃなく六年生まで来てるの?仙ちゃんはこちらをちらりと見ると、微笑んだ(ように見えた)。三郎達は顔を見合わせ、頷いた。
「では先輩方、お願いします」
「任せておけ」
留三郎くん達はそう言うと同時に一瞬にして消えた。忍たまといっともさすが六年生、ドクタケ忍者と戦闘に入ったのが見えた。
「さ、仙蔵達が足止めしてる間に行こう。早く怪我の手当てをしないと!」
六年生で唯一残った伊作くんが促した。わたしも立とうと怪我をしていない方の手を着こうとした時、脇と膝の裏を支えられてそのまま身体が浮いた。兵助くんの顔が近い。所謂お姫様だっこ。
「…っていやいやいや重いから!降ろして!」
「ダメだ。えりかさん足怪我して歩けないだろ」
「だ、う…(顔が近いいいい)」
「行こう。護衛頼んだ」
「わかった」
「任せとけ!」
「兵助役得ー」
「黙れ三郎!」
突然、身体に力が加わった。走る振動と速さが少し恐くて目の前にある兵助くんの忍装束を掴んだ。そういえば、この世界に来たときも足を怪我して、兵助くんにお姫様だっこされたんだっけ。そんなに日は経っていないはずなのに、なぜか懐かしく感じた。今のうちに心の中で謝っておく。後で皆に感謝の言葉を言うために。
(ごめんなさい)
救出100410