ひなたぼっこ | ナノ


▽ 迫る赤

冷たい感触に目が覚めた。あれ、わたし何してたんだっけ。


「お嬢ちゃん、大丈夫か」
「…、っ」
「おおよかった。寝てただけやったか」


目の前にある真っ赤な忍装束が目に入り、息を飲んだ。そうだ、あのあと牢屋から抜け出して走ったのはいいけど、何回も見つかりそうになりながら逃げてたんだ。でも疲れたから休憩するために物陰に隠れて、そのまま寝てしまったらしい。でも見つかってしまった。


「あ、そんな警戒せんでええよ。あたしはドクタケ忍者に変装してるだけの風魔忍者や」
「ふ、風魔…?」
「せや。まああまり詳しく知らんでええ。別の忍務で入ったんやけど、お嬢ちゃん攫われてきたんやろ?」
「は、い…」
「あたしが逃がしたる」


え。わたしが呆然としていると頭を撫でられた。もう今は暗くて顔は見えないけど、苦笑している気配がした。たぶん相手からも顔は見えないと思うけど、わたしの気持ちを察したのだろう。信用できないけど、何となく大丈夫のような気がした。こくりと首を縦に振った。わたし、こんなに直感的に行動する人間だっただろうか。でも今は考えていられない。関西弁の(声からして)女の人に着いて行くことにした。


「名前教えてえな。あたしは茜や」
「えりか、です」
「えりかな。聞いた話、忍術学園の事務員らしいけどほんまか?」
「はい、」
「ほんなら忍術学園まで送ってくわ」
「で、でも茜さんは、忍務が…」
「ん?ええのええの。もう終わったから」
「はあ…」


茜さんは逃げる手順を教えてくれた。まずここより離れたところに焙烙火矢を投げ、そちらに注意を引き付けている内に裏の門から出るらしい。でも門番がいるかもしれないから、と砂の入った袋を渡された。これを遠くに投げて気を引かせているうちに門から出るということだった。出てしばらく走ったら先にある地蔵で合流ということになった。


「気いつけてな。もし捕まったら大声で叫ぶんやで。助けに行くさかい」
「はい。あの、ありがとうございます」
「それは二人とも無事に出てから言おうや。な!」


わしゃわしゃと頭を撫でられて、頬が緩んだ。顔を上げると、そこには既に茜さんの姿はなかった。さすが忍者。しばらくすると、地に響く音が遠くから聞こえ、そちらにドクタケ忍者が走って行った。これが合図。袋を握りしめて教えられた通り裏門に向かって走った。

******************


茜さんの言っていた通り門番が二人いた。砂袋はあるけど、二人も騙されてくれるだろうか。どうするべきか迷っていると、また遠くで爆音が聞こえた。茜さんは大丈夫だろうか。でもいつまでも迷っているわけにもいかないので意を決して砂袋を振りかぶった、時だった。

裏門と門番が吹っ飛んだ。


(えええええ……!?)


爆発と共に門は跡形もなく粉砕されていた(何が起こったの!?)。とにかく今の内に逃げた方がいいかもしれない。壁に開いた大きな穴に向かって走り出すと、視界の角に大きな頭が見えた。


「娘がいたぞ!捕らえろー!」


運悪く見つかってしまった。とにかく、この敷地から出てしまおう。そして茂みにでも入ってしまえば少しはマシなはず。が、穴まであと僅かという所で足に激痛が走った。そのまま前のめりに転んでしまった。


「、った!」


見ると、指から足の裏まで擦れて血が滲んでいる。さっきまで気にならなかったのに、何で今更。逃げなきゃと思うのに足は思うように動かなくて、ここが限界だということを思い知らされた。そうしている間にもドクタケ忍者はどんどん近づいてくる。ここまで来たのに、茜さんに迷惑かけたのに、学園に行って事務の仕事やお手伝いしなくちゃいけないのに。そう、学園に。わたし、何もできないの?ドクタケ忍者の手が迫り、覚悟を決めて目をきつく閉じた時だった。


「えりかさんっ!!」


目の前が真っ黒になった。



迫る赤
(覆う黒)



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茜はオリキャラです。風魔忍者です。詳しくは後ほど本編で触れる予定です。エセ関西弁ですすみません。
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