▽ 無我夢中
そういえばわたし呑気にドクたま達とお茶していいのかな。わたしが連れて来られてから結構時間が経っているらしく、もう半日近くなると言われた。朝からだから、もう外は暗くなっているだろう。料理を作り始めてから数時間くらいだからどれくらい寝てたんだろう。あとこのあとどうしよう。料理は作った後、風鬼達が持って行った。ドクたま達も就寝の時間だからと戻っていった。そのあとまた牢屋に連れて来られたけど縄で塞がれたわけではないから逃げるなら今だと思うけど、逃げてどうする。どこに行くの?帰り道なんて知らないし、第一忍術学園に帰れる保証はない。先生の中にはわたしを信用してない人なんて一人じゃないのは知ってるし、仲良く話してるけど六年生だって忍者の卵。もしかしたら突然いなくなったわたしを怪しんでるかもしれない。わたしだって信用してないわけじゃない。でも、元々わたしはよそ者なんだから期待してはいけない。頼ってはいけない。ここにいる理由はないし、わたしは忍術学園に恩を返さなくてはいけないのだから、早くここから出なければ。
「………それにしても無用心だな…」
牢屋の見張り番のようなドクタケ忍者はいるけど、隣に鍵を置いたまま寝ている。女だと思って油断しているのだろう。手を伸ばせばすぐに掴めた。なるべく音を立てないように鍵を外し、静かに出る。起きる様子はない。わたしは勢いよく階段を駆け登った。
**************
どれくらい走ったのか、上がった息を落ち着かせようと物陰にしゃがみ込んだ。そんなに走ってはいないはずなのにもう苦しい。日頃の運動不足が祟った。呼吸が落ち着いてくると同時に意識も冷静になってくる。
(や、やってしまった…!)
今度は悪い意味で心拍数が上がり始める。もしかしたら、あのまま大人しく捕まっていたら解放されたかもしれない(やることやったし)。でも後悔してももう遅い。忘れてはいけない、相手は忍者。わたしは脱獄した身だ、捕まったら殺されるかもしれない。どんどん悪い方に思考がいき、涙がじわりと滲んだ。何でわたしがこんな目に。でも、今はそれどころじゃない。目元を拭い、草履と割烹着脱いで腰に巻き付け、小袖の裾をめくり上げた。遠い所でわたしが逃げたという声が聞こえ、それとは逆の方向に走り出した。
無我夢中
(行くあてなんてない)
(ただひたすら走った)100322