ひなたぼっこ | ナノ


▽ 信じているから

いつも通り、朝食堂でえりかさんに挨拶をする。でも、この日はどこか違った。えりかさんがいつもと違う。暗い、というか無理をしているように見えた。流石に詮索するのは憚られ、何事もなかったように午前は過ぎた。だが、昼に食堂に向かうとえりかさんの姿はなかった。


「おばちゃん、えりかさんは?」
「あら久々知くん。それが昼の準備に行ったきり帰って来ないのよ」
「え、」
「大根を倉庫に取りに行ったんだけど、見に行ったら大根だけ散らばっててねえ」


何だろう。理解できない違和感が俺を襲った。腹のなかで蠢くようで気持ちが悪い。食欲が湧かないまま豆腐を突いていると、いつものメンバーが顔を揃えた。


「ちょ、兵助何豆腐つっついてんの!」
「え、」
「うわーぐちゃぐちゃじゃん」
「あ、」


気づかなかった。それを見た三人は呆れたようにため息をついた。


「どうせえりかさんのことだろ?」
「どうせって何だよ」
「何となくわかるさ。朝から元気なかったの気にしてたようだし」
「(…ばれてる)」
「何年つるんでると思ってるんだよ!」


三郎がニヤニヤしながら言うものだから目を反らすために豆腐に移したら、今度は八に背中を叩かれた。こいつ手加減を知らないのか。本気で痛い。


「でもどうしたんだろうね、えりかさん。朝から元気なかったのは気づいてたけど」
「具合が悪いようには見えなかったよな」
「それだったらおばちゃんに言うだろ」
「私は大根が散らばっていた、という所が気になる」
「俺も」
「俺も」
「僕も」
「………」


気になるけど、そこからの解決策が見出だせない。何か厄介事に巻き込まれた?だが先生方が捜してるのに見つからないのもおかしい。ぐるぐると思考が回る。考えながら食べていたからか、全員無言になってしまった。と、ここで山田利吉さんが食堂に入ってきた。


「よかった。食堂のおばちゃんではなかったようだ」
「どうした利吉」
「父上。実はここに向かう途中でドクタケ忍者を見かけまして。大きな袋を担いでいたのでもしやまたおばちゃんが攫われたのではないかと思って来たんです」
「何だと!?」


がたり、と椅子を蹴る。食堂にいた殆どが立ち上がり、利吉さんを見ている。えりかさんを心配する気持ちは皆同じらしい。ただ視線を浴びている本人は状況を理解できないらしく、酷く驚いている。そこに学園長が現れ、話が始まった。


信じているから
(彼女は間者ではない)


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テーマ「人外ファンタジー」
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