ひなたぼっこ | ナノ


▽ 疑うことなかれ

午前の授業も終わり、六人揃って食堂に向かうことになった。と言ってもちょうど揃っただけなのだが。注文を頼むが、最近入ったあの人がいないのに気がついた。同じくそれに気がついた小平太が身を乗り出しながらおばちゃんに問う。


「食堂のおばちゃん、えりかは?」
「それが午前から見てないのよねえ。大根を取りに行ったきり帰って来ないのよ」


勿論倉庫にも見に行ったそうだが、大根が散らばっていただけでえりか本人はいなかったらしい。怪しいと思ったおばちゃんは既に学園長に言ったらしいが、それでも未だ見つからないらしい。


「変だな」


仙蔵が零した言葉に皆頷いた。昼食を頼んだ後だったので食べながら話す。続々と入ってくる他学年もえりかがいないのに気づき、話題となっている。下級生は純粋に心配しているが、五年からは僅かに違和感を感じた。


「先生方も捜しに出ているらしいが見つからない。しかも突然の失踪」
「間者だった、とか?」
「そんなことない!」


ばん!と勢いよく机を叩いた小平太に視線が集中する。落ち着け、と促すと渋々元に座った。間者なのでは、と疑うのも無理はない。中途半端な時期に来たし、はっきりとした素性は明かされていない。俺も疑ったが、あの夜実際に話し、何となくだがあの人は間者どころか忍に全く関係ないのだと思った。こちらは警戒し、下級生に気づかれない程度の殺気を彼女に向けていたというのに、気づかなかった。それどころか笑顔で話しかけ、寝不足の俺達の心配までした。演技ではないと察した。余りに無垢だったのだ。仙蔵も何があったのか、気を許した風がある。完全に、というわけではないがそれなりに警戒は解いていた。それは俺が見る限り最上級生の面々はそうだ。


「間者でないとは言い切れないが、可能性は低いな」
「何でだ?」
「おばちゃんが言っていただろう。大根が散らばっていた、と」
「あ、そっか。不自然だ」
「あの人は俺が見る限り与えられた仕事はきちんと最後までやる人だ。中途半端に投げ出す筈がない」
「僕も留さんと同じだよ。あの人は少し抜けてるけどしっかりしてる」
「だとしたら何処に行ったのか…」


俺がそう零すと、皆唸った。間者ではない、という結論に纏まった訳だが、解決したわけではない。どうしたものか、と食べ終わった食器を眺めていると、新たな顔が食堂に顔を出した。


「父上はいるかい?」
「あ、利吉さんだあ!」


途端に一年は組が群がる。その人は山田先生のご子息であり、フリーの忍者である山田利吉さんであった。ちらりと食堂のおばちゃんを見て安堵のため息をついた。


「よかった。食堂のおばちゃんではなかったようだ」
「どうした利吉」
「父上。実はここに向かう途中でドクタケ忍者を見かけまして。大きな袋を担いでいたのでもしやまたおばちゃんが攫われたのではないかと思って来たんです」
「何だと!?」


がたり、と食堂にいた生徒がほぼ全員利吉さんを見た。皆考えることは一緒らしい。嫌な予感がする。


「学園長の所に行くぞ」
「その必要はない」
「学園長!」


珍しく煙幕を使わずに現れた学園長。食堂内を見渡してから「皆いるな」と呟いた。ちょうど食堂が混み合う時間だ。珍しくほぼ全員揃っていた。詳しく、と促す学園長の冷静さと引き替えに、食堂の緊張の糸は張り詰めていった。


疑うことなかれ


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わかりにくいですが語っているのは文次郎です。忍たま警戒心なさすぎの気もしますがそれを溶かしたのが主人公のよさです。
100227

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