ひなたぼっこ | ナノ


▽ 喉の奥からくる

重い瞼を開くと、わたしは壁に寄り掛かったまま座っていた。どうやら寝ていたようだ。何があったんだっけ。ああそうだ、あのあとは時間になっても行かなかったわたしの所に食堂のおばちゃんが来て、結局頭が痛いからと言って休んだんだ。どちらにしろ迷惑をかけたんだ。阿呆らしい。


「………顔洗おう」


一晩中泣き腫らしたから今のわたしはきっと酷い顔をしてる。洗ってすっきりさせたかった。戸を静かに開けて、誰もいないことを確認する。忘れてはならない。ここは六年長屋、隣は文次郎と仙ちゃんの部屋。変なことをしたらすぐにバレる(する気はないけど)。日はまだ昇っていないのか、空はまだ薄く暗い。朝特有の清々しい空気が心を落ち着かせ、今だほてっていた身体を冷やす。近くの水場まで行き、水を汲んで顔を洗う。少し目に滲みたが気持ちいい。


「酷い顔」


水面に写った自分の顔を見て自嘲気味に呟く。そこには真っ赤な目の醜い女がいた。いい加減やめよう。ふるふると頭を振って水気を飛ばす。大丈夫、大丈夫。まだ、大丈夫。まだちくちくと胸の奥が痛むけれど大丈夫。生徒たちがいるもの。じわり。また涙が零れた。それを袖で拭って空気を思いきり吸い込む。がんばれ、えりか。



喉の奥からくる


(でも、)
(これが始まりだったなんて)
(わたしは知らなかった)




091123→100120

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