ひなたぼっこ | ナノ


▽ 言葉

忍装束にしてから数日が経った。今日は小松田くんに頼まれて男風呂のお湯を沸かしている。何でも吉野先生に頼まれた書類を持っていかなければならないのを忘れていたらしい(小松田くんらしくてかわいいけど)。まだ人が入る時間じゃないから大丈夫と言われて任されたけど、それも随分前の話。日が落ちても小松田くんは帰って来ない。下級生は既に早めに入ってしまったし(聞こえた話によると合同実習だったらしい)、わたしは温度を保つためにここにいなければならない。でもそろそろ食堂に行かなければまたおばちゃんだけに負担をかけてしまう。


「小松田くん早く来てえ…」


我ながら情けない声を出してみたけど誰に聞こえるわけでもなく、虚しく風に流された。と、がらりと風呂場の戸を引く音が聞こえた。どうやらまた人が入って来たようだ。


「まったく、もっときちんと指導してください。お陰で私達い組までとばっちりを受けてしまったではないですか」
「はは…、すみません…」
「私達まで泥まみれですし」
「まあまあ安藤先生。もういいじゃないですか。みんな無事だったことですし」
「そうですよ。久しぶりに刺激的な実習でしたし!」
「はは…」


この声は、安藤先生、土井先生、日向先生、厚着先生、山田先生…かな?一年生の実技・教科担任の先生方だ。このメンバーなら斜堂先生もいるだろう(喋ってないけど)。


「それにしてもいいお湯ですねえ…」
「本当に。久しぶりにこの時間に入れました」
「いつもは生徒達があがった後ですからね」


あ、そうなんだ。先生方も大変だな。


「そうそう例の少女、本気で学園に置くおつもりなんですか?」


びくっ、と身体が反応した。例の少女って、わたしのことだよね…?話題を切り出したのは安藤先生だ。今だにまともに話したことのない、安藤先生。


「本当の密偵だったらどうするんです」
「安藤先生、やめてください。そんな話」
「実際、別世界なんてあるんですかねえ。ただの妄想かもしれませんよ」
「安藤先生…!」
あんなわけのわからない小娘なんて、邪魔なだけなのに


その瞬間、わたしの中の時間が止まった。何も聞こえなくなった。何も見えなくなった。そして、走り出していた。ああわたし、勘違いだったんだ。ここに居てもいいって言われて、勝手に認めてもらえたと勘違いして。生徒たちとも仲良くなって、でもそれも自惚れだったのか。自分の部屋に入り、戸を閉める。


「……、う…っ、」


そのままわたしはその場に崩れ落ちて、声を押し殺して泣いた。涙は止まることを知らなかった。


言葉
(痛い)(痛いよ)



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これからシリアスな場面が増えます。ご了承ください。それと安藤先生好きな方すみませんでした!
081114→100120

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