ひなたぼっこ | ナノ


▽ 風が揺らいだ

学園長からの急な集会。こういう大事なものはあらかじめ言っておいてもらいたいものだが、慣れてしまった自分が恐ろしい。例の少女の件だろうと思いながら庵に向かう。なるべくえりかさんには聞かせたくないから、念には念を入れて私の部屋で事務をしてもらった(まだ警戒心の薄れていない先生方もいらっしゃるから)。庵の戸を引くと、既に学園長以外の先生方は揃っていて皆口を開かずに座っていた。その重々しい空気は好きではないが仕方ない、異世界から来た少女の行く末が決まるのだ。山田先生の横に腰を下ろすと程なくして学園長が戸を開いた。前の座布団に座り、しばらく黙る(ああ、だからこの空気は嫌だ)。


「今日、先生方に集まってもらったのは他でもない。えりかについてじゃ」


やはりそうか。他の先生方も承知の上だったらしく静かに話を聞いている。


「一月ほど経ったが、皆あの子を見てどう感じたじゃろうか?不審な報告は届いておらんが」
「………あの子はとてもいい子です。仕事を与えれば慣れていないにしろ人並みにできますし、小松田くんとも打ち解けたようで」


吉野先生が意見を述べた。確かにわからないことは小松田くんに聞いてしっかりこなしているし、たまにフォローしたりしてなかなか息が合うようだ。私にもそれは見て取れた。


「素直ないい子です。生徒達も彼女を信頼して慕っています。問題は特にないでしょう」


山田先生も言う。全くの同感だ。受け持つ先生達が口を揃えて「お姉さんみたいですき!」というのだからたいしたものだ。


「他の先生方は?」


皆ゆっくりと、しかししっかりと頷いた。決定だろう。


「うむ、では改めてえりかを忍術学園の事務員として迎えよう!」


私はここで漸く肩の力を抜くことができた。よかった。これも彼女の普段の生活の賜物だろう。


「では解散する。しっかり授業をするように!」


******************


思ったより早く終わり、出かけるために門へと向かった。途中で、同じように出張の安藤先生に会ったので一緒に門まで行く(正直嫌でしょうがない)。


「いやあ、あの空気は流石に慣れませんね」
「そうですねえ。まあ例の少女の件ですから仕方ありませんか。なんせ異世界から来た少女、ですからねえ」
「安藤先生、そんな言い方…」
「おや失礼。しかしまあこれでどこぞのスパイだったら笑えませんが」
「っ、安藤先生!!」
「……そんなに声を荒げないでくださいよ、冗談ですって」
「……」


安藤先生は笑ってみせるが、実際笑い事じゃない。愚痴を言いたいだけだったのか。だからこの人は苦手だ。私が受け持つ一年は組も含め、見下した言い方はやめていただきたい。私は早々と小松田くんに渡された出門表に名前を書いて学園を出た。後にこの会話が二つの波紋を広げるなんて、この時の私は思いもしなかった。もっと周りに気をつけておくんだったと、自分を責めることになる。


風が揺らいだ気がした


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ある意味第二章に入りました。まだ序章ですが。ちょっと暗い話が多くなると思います。

090906→100120

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