ひなたぼっこ | ナノ


▽ 満月とホームシック

これほど自分が高校に通っててよかったと思った事はないよ。あのあと再び地獄絵図と化したその場に胃を痛めながらも(本気で辛かった)、なんとか数時間は寝る時間を確保できたらしい。半分寝ている下級生達をわたしと文次郎で一緒に長屋へ連れていってから、わたし達も自分の部屋に戻った(隣だからね)。顔を赤らめながら言った感謝の言葉は君と一緒にいただきたかったよ。部屋の戸を開けて縁側に座って空を見ると、雲ひとつなく晴れて星と満月が見えていた。現代の月よりも大きくて明るい気がするのは、この世界にコンクリートジャングルがないからだろうか。ぼーっと月を眺めていたら、何でか現代に置いてきた愛犬とその子供達を思い出した。かわいくてしょうがないその子達はわたしの唯一の癒しだった。みんな元気に育ってるかな…。不意に鼻の奥がツンとして、視界が霞んだ。ちくしょー逢いたい…な。


「……ってダメダメ!来たばっかりなんだし、第一帰り方わかんないじゃん!」


満月は人を感傷的にする力でも持ってるのかな、少し寂しくなってしまった。頬を伝い始めた涙を寝間着の袖で勢いよく擦る。


「今日は満月か。一段と綺麗だ」
「うはっ!?」


突然の乱入者。隣の部屋から出てきた仙ちゃんに驚いて変な声が出てしまった(きゃあなんて言えねぇよ)。もう遅いからとっくに寝ていると思ってた。わたしは泣き顔を見られないようにそっぽを向いたまま涙を拭った。


「…立花くん起きてたの?」
「いや、目が覚めただけだ。月でも眺めようと思ってな」
「文次郎は?」
「珍しく爆睡中だ。朝まで起きないのだろうな」
「お疲れだからねー…」


不意に仙ちゃんが一旦部屋に戻ってから何かを持って帰ってきた。それからふわり、とかけられたのは薄い肩掛け。驚いて仙ちゃんを見ると「夜は肌寒いからな」と言った。


「ちょうど町に行った時に買った団子があるんだが、食べるか?」
「お団子?うわぁ!食べる食べるっ!」


目の前に出された三色のおいしそうな団子を見てついはしゃいでしまった。……笑わないでよ…。でもその笑い方でさえ綺麗なんだからちょっと悔しい。


「……年上には見えないな」
「そんなの自分が一番わかってるよ…。立花くん達の方が年上みたい」
「親父顔もいるしな」
「ホントにあの人15歳?三年生の左門くんに「親子みたい」って言われちゃった…」
「親子!」


急に仙ちゃんが噴き出した。よっぽどツボにハマったらしい(複雑…)。明日からかってやろう、と言ったのは聞かなかったことにしよう(文次郎ご愁傷様)。出された団子を何も考えないで食べていると、ぽんと軽く頭に感じた重力。どうやら仙ちゃんの手らしい。やっぱり仙ちゃんは見ていたらしい。さりげないその気遣い方にまた涙が溢れてきた。S蔵のくせに優しくしやがって…。空を見たら丸くて大きな満月が揺れながら輝いていた。


それと、お団子
(夜はずるい)




(ありがとね仙ちゃん)
(仙ちゃん…?)
(だめ?)
(…いや構わないぞ、えりか(ふ、かかったな))




策略家なS蔵
微シリアスが書きたかっただけ←

090411→100120

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テーマ「人外ファンタジー」
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