承太郎と仗助

「ただいまー」


実家での癖が抜けないのか、一人暮らしなのにいつも言ってしまう。あ、また、やっちゃったよ恥ずかしー。そんな独り言も零しながら靴を脱いで1Kの広くない自分の家に入る。


「あ、お帰りなさいっス!」
「……………ただいま」


わたし今一人暮らしって言ったのは嘘じゃない。ちなみに彼氏もこの方何年もいないし仕事のみで過ごしている。だからこの返事をした人物は誰かと言うと、その、謎なことに、親友の弟である。


「今日はどうしたの」
「洸さん、今日遅いシフトだったなと思って、夕飯作りに来ました!」


何この子天使なの!?天使なんだよ知ってた!!親友の弟であり仕事先のカフェのバイトである仗助である。彼はとてもよく懐いて?くれて、自分の事には疎いわたしの主にご飯のお世話をしてくれる。ちなみにこの子は16歳の高校1年生である。高校生にご飯を作ってもらう二十代後半女とかもう虚しすぎるんだけど天使だからなんだっていい。わたしもご飯作れないわけじゃないからね!仕事終わってから作るのが面倒なだけだからね!


「……おかえり」
「ただいま。珍しいね、承太郎がこっちに来るなんて」


8畳の寝室兼居間の部屋で優雅に寛ぎながらテレビを見ていたのは彼の兄、承太郎だった。ジョナサンもだがこの兄弟の上3人は桁外れな体格をしている。現に3人掛けのソファが1人用に見える。何食べたらそうなるのか教えてほしい。


「今日は帰りに仗助と会ったからそのまま来た」
「そうなの。じゃあジョナサンが夕飯作ってるの?」
「いや、DIOが来てやるって言ってやがった」
「(ああ、だから逃げて来たのね)」


今日の一番の被害者はジョルノだろう、可哀想に。合掌。

薄い上着を脱ぎ、すっかり定位置になった少し狭い承太郎の隣に腰掛ける。すると承太郎はわたしの頭をわしゃわしゃと撫で、一頻り乱した後満足そうに一息ついた。最初は勿論床に座っていたのだが、物凄い眼光で睨んでくるものだからこのまま殺されるんじゃないかと思った。何か気に障るようなことをしたのかと何をすればいいのか全くわからなかった。だって無口。


「できたっスよー」
「わーい!」


それはシンプルなペペロンチーノだった。でも辛い物が苦手なわたしのために辛さは控えめだしそれがちょうど良くて本当に美味しい。本当いい旦那、いや嫁になれるよ。うちにおいでよ。


「おいしーい!」
「よかったー。承太郎兄も量はこれで足りるッスか?」
「ああ」
「ほんとよく食べるね…」


見れば承太郎の皿にはわたしの何倍もの量が盛られていてどこの大食いテレビだよとか思ったけど言わないでおいた。ていうかその皿始めて見たんだけどもしかしてまた自分用の買って来たのかな。食器棚がそのせいで一人暮らしとは思えない量になっているのだが。

仗助の夕飯に舌鼓を打ち、テレビを観て談笑した後ふと時計を見ればいい時間になっていた。


「あらら、もうこんな時間。そろそろジョナサンが心配する頃だよ」
「そうっスね。承太郎兄、帰るっスよ」
「…………」
「だめだよ。明日も学校あるでしょ」
「……チッ」


うお、怖!凄みのある舌打ちって本当怖いからやめて欲しい。しかも本物の不良の舌打ち。それだけでわたし殺されそう。


「じゃあ俺明日シフト入ってるからまた明日!」
「うん、待ってるよ」
「……じゃあな」
「おやすみ、2人共。気を付けてね」


マンションの出口まで出て、大きな背中を見送る。高校男児にご飯作ってもらって見送るとか何なんだろうこれ。でもまあ楽しいし、これがわたしの当たり前である。


「あ、走り出した」


どうやらまた家まで競争とかするようだ。近いとはいえ2駅分離れているのにそれを走って帰れる2人の体力には恐れ入る。


「(若いなあ…)」


すっかり口癖になってしまった言葉を思いながらわたしも部屋に帰る。今日もゆっくり寝られそうだ。

140918
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