看病します

「38.2℃…完璧風邪だね」


体温計の数値は見事に高く、紛れもない事実を示していた。風邪には無縁に思える逞しい身体だが実は繊細だ。彼は年に1度程、高熱を出す。


「まだ手足が冷たいから上がるかもしれないから、今日は絶対安静ね」
「……チッ」


ゴホッ、と重たい咳が出る。憎々しげに舌打ちをした承太郎の額に冷えピタを貼る。幸い明日は休日で、今はもう夕方だ。学校から帰ってた承太郎がわたしの家に寄ったのだが、玄関を開けた途端に巨体が倒れこんできたから何事かと思った。どうやら自分が熱が出ていることに気づいていなかったらしく、わたしの家に着いた途端に気を失ったらしい。どんな精神だよ。


「家には連絡したから、ジョセフが帰ったら迎えに来てくれるって。それまでちょっと狭いけど、わたしの布団で我慢してね」
「……ああ」


相当怠いのか、苦しそうにそう返事をしただけでそのまま目を閉じてしまった。ジョセフはバイトで夜までだと言っていたし、ジョナサンは発掘旅行とかでエジプトに飛んでいるため彼を待つしかない。タクシーを呼ぼうかとも思ったが、わたし1人ではこの巨体を運べない。なので大人しくしてもらうことにした。

とにかく薬を飲ませようと、お粥を作る。時間は掛かるがその間ゆっくり休んでもらおう。ついでに林檎を切って焼く。柔らかくなったそれは、子供の頃から彼らが熱を出した時に作っている定番食となっている。程よくお粥も完成し、実家から送られてきた梅干しを乗せて部屋に持っていく。


「承太郎、起きてる?」
「ん…」
「ご飯、食べれる?少しでいいからお腹に入れよう」
「……」
「お粥と林檎、作って来たから」
「…食べる」


脇に食器の乗ったトレーを置き彼が起きるのを支える。着ていたタンクトップはしっとりと汗で濡れていた。辛いのだろう、そのまま息を整えている。

そんな承太郎を見て、お粥を掬い息を吹きかけて冷ましてから彼の口元に持っていく。承太郎はスプーンを見たまま動かない。


「?どうしたの?」
「……自分で食える」
「何言ってんの。手、力入らないでしょ。はい、あーん」
「………」
「あーん」
「……………ん」


観念したようで、眉間に思い切り皺を寄せながら静かに口を開いた。それに満足し食べさせてやると、力なくもぐもぐと咀嚼した。巷では不良だと恐れられているらしいがわたしから見たら大型動物みたいで可愛いものだ。


「はい、薬ね」
「ん…」


風邪薬を飲ませ横になると、眠気が強くなってきたのか何度も瞬きを繰り返している。それを見て大人しくさせようと立ち上がると、くいっと控えめに服の裾を引かれた。振り返ると、承太郎は荒い息を繰り返しながら切なげにこちらを見ていた。


「…………洸、」
「なぁに?」
「……側に、いてくれ」


いつだったかの飲み会の時とはまた違う、赤く火照った?に潤んだ瞳、汗ばんだ全身。195cmの筋肉質な体格なのに元々彼が持っている色気が相まってなんというか、イケない気持ちに…、ってならないよ!10歳年下の男子高校生に手なんか出さないし況してやわたしがそんなキャラじゃない。


「いいよ。寝るまで一緒にいるよ」
「……ありがとう」


何だこれ可愛すぎる!!ありがとうとか承太郎の口から聞くなんていつぶりだろう!逞しく大きくなったと言ってもやっぱりわたしから見たら可愛い弟のようなものだ。

ベッドの縁に座り、弱々しいけどしっかりと手を握る承太郎の頭を撫でる。そうすれば安心したのか目を閉じた。眉間の皺も緩んだ気がする。あとはジョセフが来るのを待つだけだ。


「おやすみ、承太郎」


141027
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