カフェ・パッショーネ

今日はオープンからの出勤だったのだが、いつも以上に混んでしまい、バタバタとしている間にいつの間にか閉店時間を1時間も過ぎていた。たまにいる、団体できて盛り上がって時間を忘れる客だ。

しかもメンバーは店長であるリゾット、比較的新人のペッシ、料理長のプロシュートと人数が足りなくて大変だった。特にプロシュートの方はバイトが一人厨房にいたとはいえ日は短いので殆ど彼が作っていたようなものだ。平日にどうしてこんな混んだのかは謎である。最後の客を見送り、クローズの看板を掛け中に入ると、当然だが全員が脱力していた。


「お疲れさまですー…」
「あァーー疲れたァーー」
「何だったんですかね…」


わたしもカウンター席に座り、テーブルに倒れた。終始笑顔で走り回っていた気がする。久しぶりに混みを経験した。


「もうこんな時間…。お腹空きました…」
「だな…。ちょっと待ってろ」


そう言うとリゾットは厨房に入って行った。普段は他人を入れることを頑なに拒絶するプロシュートだが今はそんなこと気にしていられないほど疲れているらしい。げっそりとしながら煙草をフカし始めた。ここ禁煙ですよ。


「ほら、食べろ」
「え!リーダーが作ったんですか?」
「簡単なまかないだがな」


残っていたご飯にぶつ切りのマグロの漬け。たしかマグロは今日までのものだがそれでも十分だしなにより豪華だろう。自分も疲れている筈なのに大人な対応をする。本当に尊敬する。


「ありがとうございます!いただきます!」
「いただきまーす!」


ペッシと共にお礼を言ってからそれを食べる。プロシュート特製の漬け醤油が染みたマグロは本当に格別で、一口で幸せになった。プロシュートも食べ始め、疲れている筈なのにとても楽しい空間になる。しかしリゾットが何も食べていないことに気が付いた。


「あれ、リーダーは食べないんですか?」
「ああ、俺はいい」


そんなこと言ってはいるが、彼だって走り回っていたし、ミスもいち早くフォローに駆けつけていたので一番疲れているだろう。わたしは少し考えてから、丼のご飯をスプーンで掬い、彼の口前に差し出した。


「…………何だ」
「いえ、リーダーが作ったものですし、どうぞ」
「………」


彼は真顔で固まり考え込んだ後、観念したようでパクリとスプーンを咥えた。その瞬間、口元が緩んだのをわたしは見逃さなかった。やっぱり美味しいのだろう。


「……お前ら、いちゃつくんじゃねぇよ」
「え?」
「は?」


プロシュートがため息を吐きながら言うので2人でそちらを見れば、プロシュートが呆れ顔で、ペッシが顔を赤くしながら手で隠していた。あーんくらい普通にやるでしょ。ジョナサンとかディオにもやるし、何とも思っていなかった。再びリゾットを見ると、心なしか耳が赤くなっている。

あれ、もしかしてわたしの普通って少しずれてる?


140925
ちなみに兄貴は同い年、リーダーは一つ上です


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