出ました

「ぎょええええあああああああ」


どうもご機嫌よう。先程の女らしさのカケラもない叫び声を上げたのはわたしです。ちなみに外は雨です。日曜日で休みだったわたしの家にはいつものように星の一族の高校生が集まっている。


「どうしたっスか!?」


真っ先に飛んできてくれたのは承太郎だった。その後ろから仗助くんが駆け寄る。わたしはというと、あまりの恐怖にパニックになり、近くに来た承太郎の逞しい胸板に抱きついた。瞬間承太郎の身体がガチッと固まった気がするが今はそんなこと考えてる余裕はない。


「うああああああ…ううぅ…っ」
「え!?ちょ、泣いてる!?お、落ち着いて!」
「おおおお前が落ち着け」
「いや、まず承太郎さんが落ち着いて下さい」


何だか周りも騒がしくなった。わたしは恐怖で震えながら冷静になろうと顔を上げるが、先程の光景がフラッシュバックし再び承太郎にしがみついた。彼はそこで漸くハッとしたように身体を揺らし、わたしを恐る恐る抱きしめた。うおお、筋肉凄いね何か落ち着く。ジョルノはゆっくりとわたしの背中を撫でてくれて、仗助はティッシュと水を持って来てくれた。

暫くそれが続いた後、漸く落ち着いたわたしはゆっくりと口を開いた。


「い、今起きたことをありのまま話すね…。実は、トイレに、出たの…」
「で、出た…?」


ああ、口にするのも悍ましい!!


「奴が、遂に出たの…ッ!」
「ま、まさか…ッ」


そこで頭の回転の早いジョルノがハッとわたしを見た。こくりと頷くと、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしてトイレを、もとい中にいるだろう奴を睨んだ。いつも冷静な彼には珍しい顔だ。


「な、何だよ、奴って…!」
「これは一大事だ…。早く対策を練らなければ…」
「だから何なんスか!!」


そこでやっとジョルノが仗助を見た。とても険しい表情だ。わたしはまだ承太郎の腕にしがみついている。ジョルノはやれやれとため息を吐いた。


「まだわからないんですか」
「わからねぇんだよ!何がいやがるんだ!」
「…………、です」
「あン?」

「………ゴキ○リですよ」


その瞬間、空間が凍りついた気がした。伏せもせず言っちゃったよこの子!!


「無理無理無理無理無理無理絶対無理無理マジかよオオオオ!!」
「奴が…出たのか…」
「ホント無理どうにかして!!」


仗助くんはビュッと承太郎の後ろに逃げた。虫が苦手なの知ってたけど助けて!ていうか人がいてよかった。これ一人だったら失神してたかもしれない。


「困りましたね。僕も流石に奴は苦手です。洸さん、ゴキ○ェットはありますか?」
「ないよ…前回出た時に使い切って買ってない…」
「前はどうしたんだ?」
「もう、一本使い切るまで噴射した。そのあとティッシュで見えないようにして袋何重にもして軍手着けて捨てた」
「洸さん勇者っスか…」


兎にも角にも買いに行かなければならない。でもその間にどこかまた隙間に入るとも限らない。ドアの隙間も危うい。


「仕方ない。じゃあ僕が買って来ますよ。それまで待ってて下さい」
「お前逃げてんじゃねえよ」
「逃げてないですよ何言ってんですか全くではいってきます」
「あ、おい!ジョルノ!」


彼は素早く財布を持ちさっさと出て行ってしまった。完全にタイミングを逃したわたし達3人は顔を見合わせ諦めのため息を吐いた。


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『近くのコンビニにはちょうど在庫が切れてしまってないそうなので、少し遠いですが薬局に行ってきます』


ジョルノからの電話を受け、更に絶望したわたし達は承太郎を見つめた。お兄ちゃん何とかしてください。わたしが一番年上だけど無理無理もう姿を見るだけでも無理。


「承太郎…」
「………やれやれだぜ」


重い沈黙の後彼はゆっくりと立ち上がり、古い雑誌を丸めて袋で包んだ。物理攻撃でやろうというのか。猛者か!


「承太郎兄かっこいいっス!!」
「承太郎かっこいい!!
「…任せろ」


人を殺しに行くかのような険しい顔でドアノブを掴む。そしてゆっくりと回し、ドアを開き、ゆっくり中を見渡し、バァン!!!と勢いよく閉めた。風圧がわたしと仗助の顔を押した。


「じょ、承太郎…?」
「………」
「承太郎兄、いたんスか?」


承太郎は無言のまま首をゆっくりと縦に振った。冷や汗がやばいことになっている。DIOをぶちのめす力のある彼も奴は苦手らしい。仗助と手を繋いでもう無理だ、とすっかり絶望し嘆いていると、ピンポーンと部屋の呼び鈴が鳴った。ジョルノが帰ってきたのかと玄関に向かう。


「おかえりジョルノ!…あれ、徐輪?」
「びっくりした。どうかしたの?」


そこにいたのはジョルノではなく中学生の徐輪だった。暇だから来ちゃった、という彼女に事情を説明すると、


「ああ、そんなこと?承太郎兄さん、それ貸して」


そう言うが早いか承太郎の持っていた雑誌の棒を奪い、トイレのドアを勢いよく開けた。「ひっ」開けた瞬間仗助と抱き合う。そして彼女は躊躇なくそれを振り下ろした。バァングシャァッという何とも形容し難いトラウマになりそうな音が聞こえ、再び仗助と共に小さな悲鳴を上げる。最早恐怖で叫べない。


「兄さん、ゴミ袋とティッシュ」
「あ、ああ…」


わたし達の所からは死角で見えないが、きっとモザイク物に成り果てたであろう奴がゴミ袋に入れられた。その雑誌一緒に捨てて下さい。


「はい終わり。エリナさんもできるのに、うちの男共は頼りないわね」
「あああああああありがとう…」


女最強説。マジ徐輪男前そこにシビれるッ憧れるゥッ!

その後帰ってきたジョルノに事の顛末を話すと、心底安心したように胸を撫で下ろした。やっぱり逃げたんだなこの子。


140922
奴は本当に怖いです。
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