05.
「姉ちゃん聞いてくれってばよ!今日の任務も迷子猫捜しだったんだってばー」
「あらあら。ご苦労様、見付かった?」
「もっちろん!俺に掛かれば猫の一匹や二匹…じゃなくって!俺もそろそろBランク任務とかやりたいってばよー」
「ふふ…頼もしいわね。大丈夫よ、始めはそうやって経験を積んでいくの。そうすればいつの間にか上達してるのよ」
「…姉ちゃんもそうだったのか?」
「ええ勿論。勿論修業もして力を付けたわ。初めは皆一緒だからね」
「俺も俺も!修業する!そんで姉ちゃんみたいにAランク任務をパパッと熟してやるんだってばよ!」
「あら頼もしい。ナルトと一緒に任務をする日も近いわね」
「おう!」




****************




「……っ」


ふっと意識が浮上した。目を開くとすっかり見慣れた、見馴れない天井が視界に広がった。身体を起こすと、全身がじっとりと汗ばんでいるのがわかり気持ち悪い。ぽたりと雫が落ち広がった。頬に触ると温かい涙が伝っていた。

懐かしい夢だった。ナルトが下忍になって、任務に就くようになって少しした頃だ。Cランクの任務しかこないことを毎日のように愚痴っていた。無理もない、敵と戦闘に入るような任務はアカデミーを卒業して間もない者が請け負う筈がない。技術的にも精神的にもまだ未熟であるのだ。だからこそ中忍試験を受け、如何に過酷かを体験しそれを乗り越え成長するのだ。

わたしはきっと、ナルトが中忍試験を受けるまでの時間が幸せだったのだろう。ナルトは幼い頃から町の人達から迫害を受けていた。それもわたしがいない、見てない所で。だから極力側にいたし、任務の時は火影様に預けていた。いつからだろうか、彼は目立つような悪戯をするようになった。


「(きっと見て欲しかったんだ、自分を)」


わたしだけじゃない、自分を嫌う町の人達に。わたしはできたら同年代の友達を作って欲しかった。アカデミーではそれを期待していたし、イルカ先生も不安はあったが信頼していた。

長くかかったが、彼は卒業し認められた。ただ、嬉しかった。班分けではごたごたもあるようだが何とか上手く行っているらしい。毎日楽しげに話してくれた。やっと、ナルトも心を許せる仲間ができたのだと、安心した。

そんな矢先、わたしは死んだ。一つ心残りなのは勿論ナルト。一人にしないと約束したのにわたしは約束を破り、彼を残してきてしまった。どうなっただろう、中忍試験は。無事合格できただろうか。大丈夫、ナルトはあの人達の息子だ。


「(父さんと、母さんの、)」


わたしとは違う、わたしだけ違う、血筋。わたしはあそこでも、ここでも血の繋がった人間がいない。そもそも親が誰かわからない。誰の子でどこで生まれたのか。気付いたらわたしは独りだった。


「…っあ、…」


恐い。暗い。怖い。独りが、闇が、怖い。いないのだ、あの人が、あの子が、側に。カタカタと震える身体を抱きしめ蹲り、声を殺して泣く。怖い。誰か、誰か誰か側に、独りは嫌。独りは、恐い。


「……スイレン?」
「、っあ…!」


ドアが開き、ダダンが見えた瞬間にわたしは飛び起き、ダダンに抱き着いていた。わたしの身長ではダダンの脚にしがみついている格好になるが、今はそんなこと気にしていられなかった。彼女の動揺と困惑が伝わってきたけど、わたしは離れなかった。離れられなかった。


「お、おいどうした?どっか痛いのかい!?」
「……っちが、こわい、の」
「怖い…?怖い夢でも見たのか?」
「……っぅ、えぇん…」


首を横に振る。違う、怖くなんてなかった。寧ろ懐かしくて、幸せな温かい夢だった。でもだからこそ思い出してしまった恐怖が襲った。

ダダンはわたしを抱き上げ、覚束ないが背中を叩きあやし始めた。ダダンの温かさと一定のリズムに段々落ち着いて来る。それと同時に眠気がゆったりと包み始めた。ああ、そうだ。


「(ダダンが、いるじゃないか)」


ダダンだけじゃない。じいちゃんも、パッチもルルーもドグラも下宿所の皆もいる。皆家族だ。友達だってキッドやキラーがいる。忘れてはいけない人達が、沢山いる。


「(わたしは独りじゃない)」


そう感じたと同時に、わたしは安堵の眠りに沈んでいた。


「(ナルトも独りじゃないよ)」


サクラちゃんやサスケくん、カカシさんや仲間がいる。伝えられたらよかったのに。どうかナルトが、独りで寂しく過ごさないように、見守って。


110314
ちょっとシリアス。子供だから怖い夢見たら起きて泣くよな、と思って。ちょっとした恐怖に恐れる夢主の巻でした。
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