06.
「それでは皆さん、将来の夢を考えてきてくださいね。明日発表してもらいます」


これで授業を終わります、と担任の先生が号令をかける。先生が教室から出ていくと途端に騒がしくなり、友達同士で固まり始めた。わたしはというと、半ば呆然としている。


「(将来かー…。今までかんがえたこともなかったわ…)」


こちらに生まれ変わってからは勿論、前世でもなかった。前は過去や生きることに頭がいっぱいで、この先どうなるかなんて想像もできなかったし、考えよとも思わなかった。でも今は、戦って人を殺すことも殺されることもない、幸せで平和なんだと思い知らされる。呑気なものだ。


「スイレン!将来の夢だって。もう決まってる?」
「たしぎ…。まだだよ。考えたこともなかったから」
「そっかー。みんなもう決まってるのかなー?」


小学6年生になった今でもたしぎとは親友だ。一度クラス替えで離れたものの、再び同じクラスになり今でも一緒にいる。彼女は5年前とは違い、おどおどしておらずはきはきと活発な女の子になった。ただ視力は悪化したような気がする。


「どんな仕事があるかとか調べない?」
「いいわね。じゃあ帰りに図書館によりましょうか」
「うん!」



***********



放課後、ここら辺では一番大きな図書館に行った。将来のことなど考えていなかったわたし達は、とりあえずそれっぽい看護士と教師に決め、適当に調べて帰ることにした。


「意外と時間かかっちゃったね」
「そうだね。急いで帰らないとみんな心配するわ」


没頭していたせいでもう日は暮れてしまい、辺りは暗い。たしぎの家はここからそう遠くないが、何かあっては恐ろしいので、わたしの家は図書館から反対方向だが、近道だと嘘をついて家まで送ることにした。近頃物騒だから用心するに越したことはないだろう。

大きな通りを通っていたが、途中から住宅街に入った。と言っても家家の塀が道路を囲み、点々と街灯がある寂しげな道だ。人の気配はなく空の暗い今は子供には少し恐いだろう。いつもは通らないらしいが近道なのだそうだ。


「夜は一人でここを通っちゃ駄目って言われてたんだけど、スイレンがいるから大丈夫だよね…?」
「うん。でも早く越しちゃおう」
「うん」


手を繋いで早足で通る。意外と長いその道は不気味で、如何にも何かが出そうである。ふと、人の気配を感じた。ぞわり、と気色悪い気配。


「たしぎ!」
「きゃっ」


たしぎに覆いかぶさる形で抱き着き受け身を取りつつ地面に倒れた。ぶつけた所とはまた違う、鋭い痛みに声が漏れる。


「っ」
「え、スイレン…!?」


相手はナイフを持っていた。後ろから襲われたせいか躱しきれず、左腕をやられてしまった。傷口を隠しながらたしぎの前に立つ。しかし傷口から溢れる血は腕を伝い滴ってしまう。

たしぎが叫び声を上げた。


「たしぎ、逃げて!」
「スイレン!!」
「、っ!」


たしぎを気にかけた隙に、不審者は再び切り掛かってきた。躱すのは容易だ。だが躱した先にはたしぎが座り込んでいる。反撃するにも腕力も脚力も成人男性を落とすほど発達していない。ならばナイフを持っている手を狙う。凶器さえ奪ってしまえば勝機はある。

来るであろう衝撃に備え、受け身の体制を取り腰を落とす。再びたしぎがわたしの名を叫んだ。


「餓鬼が一丁前に威勢張るんじゃねぇよ」


呆れたようなその声が聞こえた時には、既に不審者は吹っ飛んでいた。一瞬の出来事に反応できずに呆けていると、突然現れた大男はこちらに振り返った。まだ若いだろう彼は、しかし葉巻が似合うほど貫禄がある。厳ついが今はそれが頼もしい。

彼は共に来た数人に指示を出し、そのうちの一人が持って来た布を素早くわたしの腕に巻いた。そのあと座り込むたしぎに近寄り、頭を撫でた。


「よく我慢したな」


その途端、緊張の糸が解けたのかたしぎは声を上げて泣いた。わたしも彼女が無事なことに安心してその場にへたりと座り込む。わたしも不器用に、だが優しく頭を撫でられた。とても大きな手だ。

その後、不審者は逮捕された。わたし達は家族が迎えに来て酷く心配された(わたしの場合その後こっ酷く叱られたが)。たしぎは一応検査をし、軽い事情聴取だけをして帰っていった。わたしは腕の怪我のため入院することになった。



*********



「私ね、将来の夢決まったよ!」


あれから数日後、ほぼ傷の回復したわたしは唐突にそうたしぎから言われた。そういえばそんな話題あったなあ、とぼんやり考えていると、彼女は「何だと思う?」と可愛らしく聞いてきた。


「うーん…、わかんない。何にしたの?」
「あのね、警察官!」
「警察官?」
「そう!助けてくれたあの人ね、警察官だったでしょ?もう、憧れちゃって!」


将来はあの人の下で働きたいの!

そう笑顔で語った彼女はとても輝いていた。だから、強くなるために剣道を習うらしい。わたしと言えば、結局何も思い浮かばずそのまま流れてしまった。強いて言えば看護師なんだけど。理由は漠然ととしかないが、過去に多くの命を奪ってきた分救いたいのかもしれない。


「看護師…いいなぁ。スイレンに似合うよ!」


たしぎに言うとそう返された。似合うって何だい。


120506
ちなみに助けたのはスモーカー。一応まだ若手。たしぎが剣道を始めるきっかけを書きたかったんだけど、軽かったかな…。
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