05.
今更だが、わたしの住む地域には二つの小中高一貫学校がある。一つはボンボンやお嬢様が通うお金持ち学校。一つは大学附属の私立学校。わたしは後者の大学附属校に通っている。ここは学力をある程度維持していれば学費はかからないことになっている。いずれ自立する身として今から余りお金をかけたくなかった。

ちなみにエースも同じ学校だ。サボは頭の回転も早く要領もいいから、隣町の更に上の進学校に通っている。こちらも上位の成績を取っていれば学費は少なくて済む。ちなみにエースは皆無だった。最早わたし達は諦めている。


「あ、キッド!キラー!」


だからお金持ち学校に通う彼らに会うことは減ってしまった。今まではほぼ毎日会い遊んでいたのに、今では一週間に一度会うか会わなくなってしまった。でも仲が悪くなったわけではないし、この時期特有の気まずさもない(わたしが精神的に歳だからなのかもしれないけど)。


「おう、スイレンか」
「二人とも学校だったの?今日日曜日だよ」
「いや、なんか発表会だったんだよ。めんどくせぇ」
「違いない…」
「おつかれー。でも見たかったなー」


見るからに高そうな制服に身を包んだ彼らは怠そうにため息を吐いた。こういう行事は乗り気ではないらしい。


「それはそうと、お前は今何をしてたんだ?」
「わたし?わたしは散歩ー(劇的に暇だったのよね…)」
「じゃあこれから遊ぼうぜ!いつもの公園でよ!」
「うん!」


やった!久しぶりに遊べるし暇からも脱出できる。きっと今わたしは素敵な笑顔を浮かべているだろう。気持ち悪いくらい。



*************



「……え、えー…」


わたしの目の前には豪邸が聳えたっている。洋風とかそんなの関係なく、所謂今よくあるお金持ちの家である。立派な門がありその先に綺麗な木々に囲まれた道。それを進むと大きな玄関で、細かい装飾がされている。


「前々から気になってたけど…まさかキラーの家だったなんて…」
「そういえばスイレンが俺の家に来るのは初めてか」
「いつの間に改装したの…」


前は確かに立派な家だったけど、それでもちょっと大きい家だったのに…。まさに豪邸。キラーの両親は有名な弁護士らしい。まあ会ったことはないけど。


「こっちだ」
「え、玄関から入んないの?」
「うちは厳しくてな。両親の許可無しに他人を入れられないんだ」
「特に俺は目ェ付けられてるからな」
「仲悪いんだっけ?家関係で」
「俺ん家極道だからな。よくは思わねぇだろ」


キッドの家は極道、所謂ヤクザの一家らしい。その世界では大きくて強い立場にいるらしくて、お頭はキッドの祖父なんだとか。こっちはこっちで厳しそうだ。

裏口の柵の隙間から入り、きちんと手入れされた木々を進むと大人一人が軽く入れそうな窓が開いていた。この時間はいつも開いているらしい。


「俺の部屋は二階だ。見つかるなよ」
「当然!」
「任せて!」


忍ぶのは得意なんだから。



***************



何だかんだ見つかりそうになりながらもキラーの部屋に辿り着き、彼は素早く着替え支度を済ませた。簡素な部屋だった。次はキッドの家に行くことになり、またスリルを味わいながら外に出る。


「っはー…危なかった…」
「まさか犬に追い掛けられるとは思わなかったよ…」
「敷地内で放し飼いだからな…」


キラーの家を出てからそう遠くはない所にまた大きな門が見えた。キラーの家とは対照的に和の雰囲気漂う立派な門だ。塀がどこまでも続いている。


「裏はこっちだ」
「(金持ちって怖いわ…)」


こちらも塀の壊れた隙間から入り込み、茂みに身を隠しながら進んでいく。所々に厳ついお兄さん達がいる(こわ…)。慣れた足取りで進んでいくキッドとキラーに着いていくと、二人は不意に足を止めた。


「やべぇ…」
「どうしたの?」
「じじいがいる…」
「え?」


キッドが指差す方には、これまた厳つい威圧を放つおじさんがいた。もう見るからに頭領である。どこと無くキッドに似てる気もしないでもない。


「あそこ通らねぇと俺の部屋まで行けねぇんだよ…。何やってんだ…」
「部下と何か話しているな」


どうするか、と唸っていると、部下の一人がこちらを見た。じっとこちらを見ている。


「……もしかしてばれた?」
「…………」
「…………」


しかし部下さんはくるりと頭領の方に向き直り、私達に背を向けた。それも頭領が隠れるくらい大きいので、頭領から私達は見えなくなった。


「あれって…」
「……行くぞ」
「ああ」
「うん(やるねー)」


部下さんやりおる。



***************



「っはー…危なかった…」
「まさか猫に追い掛けられるなんて思わなかったよ…」
「あの野良猫、うちに住み込んでるんだ…」


あれ、デジャヴュ。キッドの家(むしろ屋敷)から出て三人で息を整える。不意に二人と目が合い、噴き出す。


「っはは!楽しかったなあ!」
「たまにはこういうスリルもいいな」
「違いない」


既に日は傾き始めていた。でも私達はまだ元気いっぱい。これからだ。


「公園行こうぜ!」
「ああ」
「うんっ」


やっぱりこの二人と遊ぶのが一番だ。


111006
久しぶりに書いたら二人のキャラがわからなくなりました。とりあえずキッドキラーはお金持ちのボンボン。学校については詳しく触れない予定。
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