異変に気付いたのは日が暮れて間もなくだった。外は暗くなっているのに家の中から弟達の声が聞こえない。わたしは今日は宿題をやっていたからあの子達と遊んでいない。いつもなら三人で外で遊んでいるんだろう、で終わらせるのだけど今日ばかりは嫌な胸騒ぎがした。何?
「マグラ、ルフィ達は?」
「そーいや見てねーな。まだ遊んでるんじゃないか?」
「探して来る」
「あ、おい!」
家を飛び出し、公園に向かう。遊ぶのはいつもこの公園か近くの河原だ。隈なく探してみたがここにはいなかった。
河原にも行ってみる。先日の雨のせいで水位は高くなり流れも早い。もしかしたら、という最悪の事態は必死に否定した。大丈夫、ただ少し遠くに行ってしまっただけ。
桟橋の下も覗いて見たけど、ただ広い闇が広がるだけで人の影はなかった。ちらりと視界に光が入った。警官だ。聞いてみようか、とも思ったが今わたしがこの時間に外にいるのも咎められそうだ。絶対探させてくれない。それを避けるために物陰に隠れて警官から逃れた。
「(早く、早く見つけなきゃ)」
ぽつりぽつりと雨が降ってきた。頬に雫が当たる。そういえば、前もこんなことがあった。まだ幼かったナルトが夜になっても帰ってこなかったから探しに行ったら、林の奥で一人で泣いていた。どうしてそんなところにいたのかは忘れてしまったけれど、あの子は傷だらけだった。早く気付けなかった自分が情けなかった。
「そうだ、気配…」
身体の奥底にあるチャクラを練り神経を耳に集中させた。どんどん広がる音の連鎖。その中に三人の音が見付からなかった。随分と遠くにいるらしい。
「…………くそ」
前は人の気配など直ぐに把握できたというのに、やはり鈍っているらしい。使う必要がないからというのもある。周りに人がいないことを確認してから、わたしは影分身で手分けして探すことにした。雨が本格的に降り出していた。
***************
隣町まで来ると、疎らだが人がいた。気配を探ると、どうやらこの近くにいるらしい。雨でこの時間だ、小学生がびしょ濡れで歩いているのを見て周りの大人は驚きながらも何も言わない。言わなくてもいい。面倒事は嫌いだ。
ふと、公園が視界に入った。近所のものより小さいが、ブランコやシーソーなどは完備されている。わたしはその中の土管の遊具に近付いて穴を覗いた。やっぱり、
「エース、サボ、ルフィ」
「……!!スイレン…!?」
「すいれん…っ」
驚いたようだが、すぐに知っている人間だと気付いた途端にルフィが泣き出した。飛びついてきたルフィを抱き返してやると、わんわんと大声で泣き叫んだ。呆然としているエースとサボの頭を撫でてやると、我慢していたのか同じように泣き出した。
「こ、こわかった…っ!」
「かえれないかと、おもった…!」
「よしよし。じゃあ一緒に帰ろうね」
大丈夫、わたしは君達がどこにいても見つけてあげる。独りになんかさせないし、寂しい思いなんかしなくていいように、ずっと側にいるから。わたしから離れる、その日まで。
「(わたしが寂しいだけかもしれないけど)」
漸く止んできた雨の中、わたし達は四人手を繋いで家に帰った。
「帰ったら怒られるね」
「ダダンか…げんこつだな…」
「ひいい…」
「帰りたくない…」
もちろんお帰りの前には痛い拳固がプレゼントされた。そのあとは痛いほど抱きしめられたのだが。
後から聞いたら、野良猫を追い掛けていたらいつの間にかあそこにいたらしい。夢中になるのも限度があるだろう、弟達よ。
「はい、わたしに言うことは?」
「「「すみませんでした!!!!」」」
よろしい。
110613