「……できた」
ルルーお手製のエプロンを着け、菜箸を片手に息を吐く。目の前にあるそれはわたしの自信作で、黄色い中に赤い点々とした物が混ざっていて可愛らしい。
わたしはそれを切り分け、皿に盛ってリビングに持って行った。時間は夕飯である。
「お、できたか」
「うん。パッチ、どう?」
「いいんじゃねぇか?上出来だぜ。あとはあいつらがどう言うかだな」
「そうなんだよねー」
他の皿も運び終わり、皆を呼んできていざ食事が始まる。
「いっただきまーす!」
「いただきまーす!」
「にくうめぇっ」
「ルフィ、いただきますでしょ!」
「あだーっ!」
挨拶もしないで食べはじめる奴には容赦しない。まだ四歳とかそんな甘ったれたことは断じてしない主義だから、厳しくする。その分肉料理なんだから、いいだろう。
ルフィは早くも四歳になった。しかし兄二人(ほぼエース)のせいか既に口が悪い。エース程じゃないからいいけど。エースとサボは小学校に入学し、また一段階悪ガキになった。まあ男は元気が取り柄だから止めはしないけど。
そして今は食事中なのだが、実は内心緊張している。彼等がなぜか一様に嫌いな食べ物を目の前にしているからだ。
「大丈夫だって。あいつらなら寧ろ気づかねぇだろ」
「うん…」
そんなわたしに気づいたパッチが頭を撫でてくれた。パッチ兄ちゃんかっこいい。
「あれ、きょうのたまごやき、なにかはいってるぞ?」
「(どっきーん)」
「あ、ホントだ。赤いな」
「?何だこれ」
「(とりあえず何も言わずに食べて頂戴な…)」
ルフィがちょいちょいとそれを突く。幼いって罪だと思う。心臓が持たない。
すると、そのルフィがパクりと一切れを口に入れた。もぐもぐと口を膨らませながら食べるのは可愛いけど今はすごい反応が気になる。
「…?…!んめぇっ!」
「!!」
「なんか、いつもよりあまいぞ!」
「………ふぅん」
「じゃあおれもくう!」
よかった!ルフィが食べてくれたおかげでサボも摘んで食べた。反応は上々。どんどん減っていくそれに思わず口元がにやけた。
でもまだ箸を付けてくれない問題児がいる。言わずもがなエースである。二人と卵焼きを交互に見ながらも箸を伸ばそうとはしない。それに気付いたサボが一つ、エースの更に卵焼きを置いた。
「お前たべないのか?なくなっちまうぞ」
「………これ、なにはいってんだ?」
ああ、遂に核心を突いた。そういえば、とルフィとサボが顔を見合わせる。じっとその赤い物を見てから、あ、とサボが口を開いた。エースも嫌そうな顔をしながら頷く。
「これって…」
「えーい」
「むぐっ!?」
すかさずエースの口に卵焼きを突っ込んでやった。出そうとしたのを無言の威圧で制すると、彼は大人しく咀嚼する。ごくり、と飲み込んだのを見届けてから聞いてみる。
「どう?」
「…………うまい」
「そう、それはよかった」
偉いね、と頭を撫でてやると無言で残りの卵焼きを平らげてしまった。あらまあ。サボは苦笑しながら見守っている。ルフィは訳がわからずキョロキョロとしてからわたしを見た。
「すいれん、これなんだったんだ?」
「んー?ルフィとエースとサボが嫌いなもの」
「きらい?」
「にんじんだよ」
「にんじん!?」
そう、弟三人は肉は大好きなのに野菜が嫌いなのだ。そんな栄養が偏っては、成長期の彼らにはよくない。わたしなりに考えた結果だった。一つずつ、慣れていけばいい。
「うまかった!にんじん!」
「よかった。じゃあもうにんじん食べられるね」
「うん!」
三人の頭を撫でてやると、三人三様の表情を見せた。今日も我が家は平和です。
110613