10.
「あーあー」
「うーうー」
「ちょ、ちょっと待ってよエース。今サボのおむつこうかんしてるから」
「あー!」
「すぐ終わるからーっ」


エース達は喃語を話すようになり、はいはいもできるようになった。わたしは成長したのか漸く舌が回るようになりしっかり喋れるようになった。よかった…。

それなりに行動できるようになった彼らはとにかく遊びたい盛りだ。昼寝と食事以外はわたしを追い掛けてきて遊びをせがむ。その繰り返しだ。だが二人の遊びは激しい。というかエースが髪を引っ張ったりが激しい。サボはエースに比べたら大人しいが、二人にはダダン達もお手上げ状態だ。わたしには懐いてるらしいけど。


「エース、サボもお昼ねのじかんだよ」
「やー!」
「やー!」
「あ、こら!」


途端に尋常じゃない速さのはいはいで逃げてしまった。え、何なのあの子達!?将来がある意味不安になるが今はそれどころではない。今日はダダンが休みで部屋で寝ているのだ。ちなみにわたしは部屋を与えられてエース達と一緒に寝ている。

もしエース達がダダンの部屋に入ってしまったらと考えただけでも恐ろしい。ドアは閉まっているだろうから大丈夫だとは思うけど、物音で起きても…あの拳骨はもう二度と御免だ。


「エースー…サボー…、!?」


とりあえずなるべく大声を出さないように探そうと、部屋を出てわたしは絶句した。何で全部の部屋のドアが開いてるの!?

近くの部屋に入ると、マグラが窓を拭いていた。あれ、何で?


「マグラ、何してるの?」
「ん?まーまースイレンか。部屋の換気だよ。最近閉めっぱなしだったからな、空気が篭るのは赤ん坊に悪いってマキノが言ってたし、お頭が許可したんだ」


よりによって今日とか…せめてダダンが仕事の時とかあったでしょ…。誰を責めることもできずにふらりと部屋を出て、長い廊下を見つめた。これは骨が折れるわ。


「(絶対見つけてやるんだから!)」


ふんっと気持ちを切り替えて拳を握った。さて、じゃあ早速隣の部屋だ。


「エース、サボ?」


声は帰ってこない。そろりと中に入ると、CDが山積みにされている棚が目に入った。コンポは見たところ新しい。ここは確かパッチの部屋だ。音楽が大好きでいつもヘッドホンを首に掛けている。

隠れそうな机の下を覗いたけどいなかった。諦めて部屋を出ようと振り返ると、部屋の住人が帰ってきた所だった。


「おかえりなさい、パッチ」
「おう、ただいま。お前、俺の部屋で何してんだ?」


パッチに事の経緯を話すと、納得したようで顎に手を当てた。


「そういうことか。よっぽど遊んで欲しかったんだな」
「でもダダンが起きたらおこられる。わたしが」
「違いねぇ。俺も手伝ってやりてぇが、生憎今日は飯の当番でな」


そういえばそうだった。つまりこれから買い物に行くから、ということか。


「大丈夫、見つけるよ」
「悪いな。じゃあ今日の飯はハンバーグにしてやる」
「やったーっ」


パッチはわたしの頭にポンと手を置いてから部屋を出て行った。いってらっしゃーい。さて、わたしも頑張らなければ。



**************



次々と部屋を見るが一向に見つからない。ルルーの部屋に入ると、彼は仕事が休みのようで机に向かって何かしていた。ルルーはただでさえ体格がいいから机が見えない。


「ルルー」
「お?どうしたスイレン」
「何してるの?」


弟達を探すのもあれだがどうしてもルルーの手元が気になった。ルルーは「ちょうどいいな」と呟いてから、手元のそれをこちらに差し出した。


「エプロン…?」
「おぉ。お前最近料理を手伝ってるだろ。そろそろ必要だと面ってな」


それはオレンジ色で花柄の可愛らしいエプロン。全部手作りとか嬉しすぎる。ルルーの手先の器用さには感服する。


「あ、ありがとう…っ」
「おぉ。大事に使ってくれよ」
「うんっ」


エプロンを持ったまま部屋を出て再びかくれんぼを再開した。ちなみにルルーの部屋にはいなかった。



***************



「(疲れた…)」


結局どの部屋にもいなかった。台所もダダンの部屋も。特にダダンの部屋に入るときは精神的に辛かった。体力作りのために走ろうかな、とか思いながら半ば諦めで自室に帰って来ると、目の前の光景に思わず苦笑した。


「(なんだかなあ)」


タオルケットを引っ張り出し二人に掛けてやると、起きる様子はなくすやすやと眠っている。

静かにドアを閉めると、遠くで玄関の開く音が聞こえた。わたしはエプロンを着けると、そちらに向かって駆け出した。


110319
オリキャラのパッチとルルーに絡ませたかったが故に。パッチは見た目チャラ男で中身は面倒見のいい兄ちゃん。ルルーはスキンヘッドの大男(縦にでかい)だけど温厚。
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