07.
「あれ…?」


いつもの如く三人で遊んでいた時だった。わたし達は既にテリトリーと化している公園(勿論よく行くという意味だ)でかくれんぼをしていた。キラーが鬼で、見付かったら最後なので必死に隠れ場所を探していると、公園の隅にあるベンチにポツンと座っている女の子を見付けた(キッド達より少し上だろうか)。

彼女はただ黙々と本を読んでいるのだが、ここ二年近くこの公園に入り浸っているのに見たことがなかった。少し気になりゆっくり近づくと、彼女はこちらに気付き顔を上げた。黒髪にすらっとした鼻、真っ直ぐな瞳に思わず息を飲んだ。


「(綺麗、)」


女のわたしですら見惚れてしまった。まだ幼いだろうが彼女には綺麗という言葉が合うのだ。わたしが余りにもじっと見ていたからか彼女は戸惑いながら口を開いた。


「あの…なに?」
「あ、え、っと…」


いや何て言えばいいんだ。思わず見惚れてたって?変な餓鬼だろそれ。いきなりそんなの言われたって困るよね。


「あの…はじめて、みたから」
「?…ああ、いつもここで遊んでいるの?」
「う、うん」
「私ね、昨日お母さんの知り合いのところにきたの。じゃましたら悪いから、ここで本を読んでようと思って」


な、何て大人なんだ…。最近の子ってやっぱり大人びてるんだ…わたしなんてまだ平仮名表記で喋ってるのに。舌が回らないのに。

少しショックを受けながらも何とか立ち直り、彼女の手元を見た。


「なに、よんでるの?」
「気になる?」
「うん!」
「ふふ、座って」


ポンポンと隣に促され、素直に座ると頭を撫でられた。お、お姉さん…。


「お母さんのしょさいから勝手に持ってきた物だから、内緒ね」
「うんっ。くちはかたいよ!」
「ふふ。あのね、これは昔の人の航海日誌なのよ」
「こうかいにっき?」
「海を船で旅して、どんなことがあったのかを書いてるの。これは海賊の物なの」
「これ、ほんもの?」
「ふふ、どうだろうね?」


笑顔ではぐらかされた…。でも中を見たけど、所々薄れて読めない。全体的に古くて紙が黄ばんでいるし、端が切れてたりしている。でもよっぽど大事にされていたのか綺麗だ。ていうかこの歳でこんなに難しいの読めるのか、この子は。


「なんてかいてるの?」
「そうね、“新しい仲間ができた”とか“見たこともない巨人と仲良くなった”とかかな?でも名前が読めないの」
「“いちねんじゅうゆきがふるしま”?おもしろそう」
「そう?よかった。でもあなた、変わってるね」
「どうして?」
「だって、読めるんでしょう?」
「(あ、やべ)ち、ちょっとならわかるよ!おしえてもらってるもん!」


苦しい言い訳だ。彼女も気になったようだが深くは追及してこなかった。


「そういえばあなた、名前は?」
「あ、すいれんだよ」
「私はロビン。一週間はここにいる予定だから、また会えない?」
「うん!まいにちくる!」
「よかった」


にっこりと笑った彼女につられてわたしもへらりと笑った。いつもキッドやキラーとしか遊んだことがなかったから、女の子の友達は初めて。何か新鮮かも。

そのあとも本を読んでもらって楽しく過ごした。かくれんぼをしていたことをすっかり忘れて。




(スイレン…見つけた)
(あっきらー!わすれてた!)
(まて)
(ぎゃーっ)

110315
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