鬼灯 | ナノ



五つ年上の椎蓮先輩は僕が一年生の時に六年生で、ドジでミスってばかりの僕をいつも助けてくれた。頭もよくて技術もあって、忍たまの先輩達にも互角、或はそれ以上の実力があった。僕は先輩が大好きだ。それは六年経った今でも変わらない。頻繁に学園に来る先輩はもう学園では知らない人がいないくらい有名で当たり前になっている。でもその先輩を学園で一番早く迎えて挨拶をするのは僕だ。

昔僕が鈍臭いせいで皆に迷惑をかけるのが嫌であまり教室にはいなかった。そのせいで友達がいなかった。いつも一人で門の所で待っていたら椎蓮先輩は来る。それが嬉しくて、先輩に一番に会いたくて、毎日そこにいた。入門票や出門票もやるようになった。ある日、先輩は縁側に腰掛けながら僕に話しはじめた。先輩が卒業して少し、僕が二年生の時だ。


「秀作はいつもわたしを一番に出迎えてくれるね」
「はいっだって先輩に一番に会いたいからっ」
「あらあら、嬉しいことを言ってくれるねぇ」


先輩が気づいてくれた。嬉しい。僕は先輩がいてくれればそれでいい、友達なんていなくても平気だ。そう言うと先輩は悲しそうに笑った。


「あら…友達がいらないなんて、そんなこと思っては駄目よ」
「どうしてですか?先輩が大好きなんです、一緒にいたいんです」
「ありがとう。できればわたしもそうしたい。でもそれは難しいことよ」
「どうして?」


椎蓮先輩は僕の頭を優しく撫でてから少し遠くを見つめた。つられて僕も同じ方を見る。


「秀作はどうして友達がいらないの?」
「だって…だって僕鈍臭いから、みんなに迷惑かけちゃう。きっとみんな僕のこと邪魔だって思ってます」
「それは誰かに言われたの?」
「…え?」
「は組のみんなに、言われたの?」


いつもの眠そうな眼じゃなくて、真面目に真っ直ぐ見てくる先輩の眼に吸い込まれそうになった。とっても、綺麗だった。


「……言われたことは…ない、です…」
「そう。なら何で皆が邪魔だと思うの?」
「それ、は…」
「君は行動が丁寧だから、皆より少し遅れてしまうの。教室に置いていたテスト用紙が風で飛ばされて、それを集めていたから授業に遅れてしまったのよね」
「!!何で…」
「本当は手伝いたかったのよね。でもまだ一年生だったから、先生に怒られるのが怖かったのよ」


先輩がまた遠くを見る。僕もそっちを見ると、陰から水色の忍装束が見えた。同じクラスのみんなだ。僕は思わず身体を硬直させた。何を言われるかわからない、怖い。みんなはゆっくりと僕の方に歩いてきた。思わず逃げようとしたのに先輩に腕を掴まれてしまい、できなかった。


「……あ、う…」
「こ、小松田!」
「へ!?」


突然、クラスメート(たしか学級委員長)が僕の名前を呼んだ。びっくりして彼を見ると、顔を真っ赤にしながらこっちを見ている。ど、どうしよう。


「ごめん!!」
「へあ!?」
「俺もごめん!!」
「ごめん!!」
「え、え!?」


何が何だかわからない。突然頭を下げた彼らは次々と謝罪の言葉を口にした。


「や、やめてよ!何で謝るの!?」
「だって…あの時、見てたのに、助けなかった…」
「話したかったけど、何か、俺達も怖くて…」
「うるさいって言われたら、どうしようって…」
「……え、」
「と、友達になりたいんだ!」


何が何だかわからなかった。ただ、驚いたけどそれ以上に「友達」という言葉が胸に沁みた。温かい。涙が溢れていた。


「っぼ、僕で…いいの…?」
「当たり前だろ!俺達全員では組なんだから!」
「みんな友達で、仲間だ!」
「な、なかま…」


僕には無縁だったその言葉がすとんと心に落ちた。初めから、避けていたのは自分の方だった。仲間割れになるのが嫌で、自分から離れていた。ごめんね、と言うとみんな泣きながら頷いた。


「椎蓮せん、ぱい」
「ん?」
「僕、やっぱり友達が、欲しいです」
「…ええ。もういるじゃない、こんなにたくさん」
「…はいっ」


椎蓮先輩は優しい瞳で、へらへらと笑いながら僕達を見ていた。僕はこの変な笑い方が好きだ。安心する。だけど僕は違う安心する場所を見つけた。僕は絶対に離さない。先輩にありがとうございます、と言うと彼女は笑いながら遊んできなさい、と僕の背を軽く押した。目の前には笑顔の仲間がいた。

椎蓮先輩大好きです。立派な忍者にはなりたいけど、先輩を出迎えるこの仕事も辞められないと、そう思った。




110207
小松田さんの過去捏造
戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -