鬼灯 | ナノ

拾捌


晴れやかな空、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。学園の一番空に近い場所から見下ろすと、昔とは見間違える程大きく成長した彼らがいた。彼らは各々涙し、笑いあっている。今日は、この学園で6年間を過ごし、乗り越えた子供達が大人への一歩を踏み出す日である。

そう、わたしがこの学園の講師になり、正式に教師になってきっちり6年間見てきた子達が巣立つ日だ。

今までの学年も組も学年ご上がるにつれ内容に着いて行けずに学園を去った者、或いは任務に失敗し命を落とした者もいた。だがあほのは組と呼ばれた彼らは誰一人欠けることなくこの日を迎えた。きっと、本人達以外は信じられないだろう、何せ問題を持ってくる原因達なのだから。

しかし今は(確かに阿呆だが)立派な忍だ。勿論皆が皆忍者になる訳ではない。学園の教師になる者や剣豪を目指す者、実家の家業を継ぐ者もいる。


「皆、いい顔してるわ」


しんべヱなんて鼻水と涙でぐしゃぐしゃで酷い。それでも寂しさと嬉しさと混ざった複雑な、素敵な表情。そんなしんべヱを宥めるきり丸に乱太郎、いつもの三人組。そして彼らを囲むようには組の生徒が笑い合う。それを見て、わたしまで思わず口元が緩む。


「彼らと話さないのか?」
「あら、土井先生」


いつの間にか隣に立つ土井先生は少し老けた(いや、大人の色気と言うべきか)。が、目元の優しさは相変わらずで側にいると安心する。6年間彼らの担任を全うしたので、喜びも寂しさも一入だろう。現に目元は既に赤くなっていた。なんだ、逃げて来たのか?


「そういう土井先生こそいいんですか?」
「私は十分話した。ちゃんと一人一人な。だが気づいたら君の姿がないから探していたんだ」
「いいんですよ、わたしは。今はここから見てるだけで。後で突撃しに行きますから」
「それの後始末は自分でしろよ」
「あら、お見通しでしたか」


あらあら。流石に長いとわかってらっしゃる。わたしの突撃はつまり忍術や体術を使った戦闘だ。結局誰一人わたしに勝てた者はいないが。


「君も、よくやったな」


一拍置いてから、彼は静かに言った。その言葉はすとんとわたしの心に落ちて、安心した。この人には本当に叶わない。ありがとうございます、と小さく応えておいた。


「それでだな、その…椎蓮、」
「はい?」
「その…話が」
「椎蓮さん!!」


突如気配もなく姿を現したのは利吉くんだった。顔が般若のようになっている。


「吃驚した。どうしたの?」
「こんな所にいたんですね!皆探してましたよ!」
「あらあら、じゃあ皆迎え撃つ準備はできてるってことかしら?」
「あはは、それはどうかわかりませんがね」
「利吉くん…」
「あれ、土井先生。いらしてたんですか」
「…………」


おやおや、何やら空気が冷たいぞ?ここはちょっと逃げるが勝ちかな。


「それではわたしは行ってきますね。久しぶりに腕がなるなあ」
「あ、ああ…」


後ろで静かに戦いが始まっているのに気付かないフリをしてわたしはそこから飛び降りた。チャクラを練って細かい水飛沫を撒き散らす。それはほぼ霧のようで、太陽の光を浴びて虹を作らせた。それに気付いた生徒達はわあっと声を上げる。さあ、受け取って。わたしからの手向けだよ。


「卒業おめでとう!!」


きっと彼らは様々なことを経験していくだろう。そしてわたしも、前世でできなかったことを沢山していく。たとえもう愛しい弟に会えなくても、この世界にはそれと等しく大切な人達がいるのだから。だからわたしは、これからの人生楽しく生きる!


さよなら、そしてよろしく!



140711
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