拾漆
その後、何ら問題なく3日間を過ごし、今日で林海学習は終わりである。生徒達は思い思いに水軍の方々からいろいろ学んでいるようで、わたしは土井先生に彼らを任せて一人散策してみることにした。1日目の夜以来一人で行動することはなかったために、新鮮な気分だ。長く海の近くにいたせいなのか、一度海に沈んだからかわからないが、以前ほど海に対して抵抗はなくなっていた。
足にチャクラを集中させ土と岩の壁を登ると、下を一望できる拓けた崖だった。水軍の展望台とは反対方向にあり、また違った景色がある。今日も天気がよく海は相変わらず光を反射してきらきらと眩しい。大きく息を吸い込むと、とても清々しかった。
「わたしは何が嫌だったのかしら」
今となっては自分でも疑問になってしまう。海が苦手だった理由。想像するだけであちらの、前世の父と弟を思い出してしまい、帰りたいと、逢いたいという気持ちが抑えられなくなると思ったからだ。実際海に来てみればそういう気持ちもあった。でもそれ以上に綺麗だったのだ。暗く蠢く気持ちを上回る海の大きさに圧倒させられた。
わたしを海から引っ張り上げた彼は、海を見ていると自分がいかにちっぽけか思い知らされると言っていた。全くその通りだ。わたしは小さい。わたしはまだこの世界、人生で何も残してはいないではないか。前世を悔いても所詮は違う人生だったのだ。世界も違えば生きている人も違う。ならば今を生きるしかないではないか。
「わたしは忍よ!見ていて父さん、母さん!貴方がたの名に恥じない忍の生き方をします!ナルトも負けるんじゃないよ!」
笑顔と共に何故か涙が溢れだした。悲しいとか負の感情ではなく、寧ろ清々しいとても気持ちいい気持ちでいっぱいだ。
「姉ちゃんはいつまでも貴方を愛しているわ」
例えもう二度と会えなくてもこの気持ちだけは変わらない。そこで漸く、この世界が輝いて見えた。そうか、この世界を否定していたのはわたし自身だったのだ。勝手に苦しんでいただけだった。こんなにも美しかったのに。
「ふふ、わたしもまだまだね」
海から浜辺の生徒達に視線を移し、微笑んだ。
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「さあ、皆で一緒にな」
「せーの」
「「「お世話になりましたー!!」」」
夕飯に間に合うようにと、帰りは早めに出発する。学びの場であったとはいえ、相当楽しかったようで彼らの肌はつやつやしている。これは学園に帰った途端に倒れてしまうのではないか(疲れと眠気で)。
「お世話になりました。貴重なお時間をありがとうございました」
「いやいや!此方もいい息抜きになりました!またいつでも来てください!」
「ええ、是非」
わたしにとっても有意義な時間だった。来てよかったと心底思った。また来よう。苦手ではなく、懐かしい気持ちでいっぱいになった。
帰りは再び皆で歌を歌いながら行進する。楽しげな彼らを見て思わずくすりと笑うと、隣を歩く土井さんが不思議そうに声を掛けてきた。
「何かあったのか?」
「ふふ。いえ、何でもありませんよ」
「?」
土井さんな首を傾げたが、わたしは気付かないふりをして空を見上げた。さて、人生は始まったばかり。生きますぞ!
121114
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