鬼灯 | ナノ

拾肆


昼食が終われば午後の日程に入る。といっても午後は体力作りと命名したほぼ自由時間だ。水軍の方々がそれぞれに相手をしてくれている。方や泳ぎを教えて貰ったり、方や海に出て釣りをしたり。実に楽しそうだ。


「君も行ってきたらいいじゃないか」
「そんなはしゃげる歳じゃないんですよー」
「私から見たらまだまだ子供だけどな」
「……………」
「わかった、睨むな」


土井さんったら。精神年齢から言ったらわたしの方が一回り近く年上何ですからね。……悲しいけど。

わたし達教師陣は楽しく学ぶよい子達を眺めている。勿論危険がないか警戒しながらだが、周りには兵庫水軍の方々が付いているからそう問題はないだろう。

土井さんは「乱太郎達を見てくる」と言って、高台に行ってしまった。わたしは特にすることもなく、水軍館からぼうっと砂浜を見ていたが、入口から兵太夫がひょっこりと顔を覗かせた。


「あ、椎蓮さん!」
「兵太夫、どうしたの?」
「手ぬぐいを取りに来たんです。足りなくなっちゃって」
「ああ、兵太夫は確か泳ぎを教わっていたのよね」
「はい!」


水を吸って纏まった髪や、濡れた全身を見ればわかる。随分楽しんでいるようで瞳はきらきらと輝いている。自分の荷物から目当ての手ぬぐいを何枚か取り出し、水軍館から出ようとした彼は、「あ」と声を零してから振り返った。


「椎蓮さんも一緒に泳ぎませんか?」
「え、」
「ねっ、行きましょうっ!」
「あ、ちょ」


あれよあれよと引きずられて水軍館を出てしまった。じり、と照り付ける太陽が眩しくて一瞬目の前が真っ白になる。連れて来られたのは水軍館からそう遠くない海岸。三治郎と団蔵、虎若、金吾が浜辺で談笑していた。隣には赤い髪の水軍の人がいる。


「おーい、みんなー!」
「あ、兵太夫ー、って椎蓮さんだあ!!」
「連れて来たのか?」
「連れて来たー」


わたし達に気付いた彼等は休憩中なのか、濡れたまま手を振った。海が、近いなあ。


「椎蓮さんも泳ぐんですか?」
「泳ぎは得意なんですか?」
「うん、まあ一応(川とか土だったら自信あるんだけどな…)」
「舳丸さんすごいんですよっ!水軍一の水練なんです!」
「鯨漁の時とか真っ先に頭に行くんですよ!」
「かっこいいし!!」
「へえ…水練の方なんですか」
「え、ま、まあ…。あんまり囃し立てないでくれ…」


成る程、彼は舳丸さんというのか。少し照れたように頬を掻く彼はどこと無く可愛らしい。思わず笑うと、どうやら見られてしまったらしい。軽く睨まれた。


「笑わないで下さいよ…」
「ふふ、すみません。でも舳丸さんは海がお好きなんですね」
「え、どうしてですか?」
「だって、」


好きじゃないと潜っていたいなんて思わないでしょう?


「わたしは少なからず、好きでないとそれの中にいたいとは思いません。だからわたしは海には潜りません」
「………え?」
「だから舳丸さんが羨ましい。海が好きだということが」
「…………」


言ってからハッと周りを見ると、皆ぽかんと口を開けていた。わたしったら何意味のわからないことを口にしているの…。


「ごめんなさい。今のは忘れて」
「…?やっぱり椎蓮さんは大人だ!大人な考えなんだ!」
「……え」
「じゃあ大人になったら僕らも言えるようになるかなぁ」
「なるだろっ」


何かよくわからなくなってる。とりあえず彼らは深く考えないようにしたらしい。まあ賢明な判断だろう。


「あの…、椎蓮さんは海がお好きじゃないんですか?」
「…好きでは、ないですね」
「なぜ…ですか?」


何故。


「似てるから、ですかね」
「え?」
「さて、そろそろわたしは船の方に行きます。君たちも程々にするのよ?」
「はーい」


わたしは逃げるようにその場を後にした。ああ、この中途半端な気持ちをどうにかしたい。振り払ってしまいたい。でも、忘れたくはない。複雑な感情がただ、わたしの中で渦巻いていた。

110824
わたしもよくわからない
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