鬼灯 | ナノ

拾弐


しほーろっぽーはっぽーしゅーりけんっしほーろっぽーはっぽーやーぶれっ


楽しげな歌に思わず頬が緩む。きちんと二列にならんで隣の子と手を繋いでいる姿は微笑ましくて、先程からずっと胸がきゅんきゅんしている(ちなみにわたしの隣はきり丸だ)。

今日は先日学園長に言われた通り一年は組と林海学校として海に向かっている。皆慣れているのか足取りは軽い。わたしはというと、徐々に香ってくる潮風に心拍数ばかりが上がって正直苦しい。わたしは一体何に恐れているのだろう。


「あ、見えてきたぞ!」


先頭を歩く庄左ヱ門がそう言うと、皆は一斉にそちらに駆けて行った。元気だなあ羨ましいよ。


「まったくあいつらは…」
「ふふ、若くていいじゃないですか」
「…お前も十分若いと思うぞ」
「いえいえ、婚期逃した女は若いとは言えないんですよー。わたしもう二十一ですからね」
「……」
「ふふっ、すみませーん」


へらへら。土井さんったら可愛いなあ。年上をからかうのはどうかと思うけど、土井さんなのだから仕方ない。どこかイルカ先生に似ててどうしても同じように接してしまうのだ(声なんてそっくりだし)。

不意に波の音が聞こえた。子供達は道の終わりで立ち止まりこちらに手を振っている。少し駆け足で行くと、視界に青々とした空と海が広がった。


「(あ…、)」


ただ、感嘆しか出なかった。二十年以上見ることのなかった海がそこに広がっている。あの人を思い起こさせるような海が。顔はもう朧げにしか思い出せないのに、妙に懐かしかった。しかしそれと同時に言いようもない恐怖が胸に広がる。


「よーしお前達、兵庫第三協栄丸さんに挨拶しに行くぞ!」
『はーい!』


土井さんの言葉にハッとし、周りを見渡すと子供達は既に歩き始めていた。慌てて後ろに付き、自分の胸中に知らない振りをして頭を振った。




***************




「組分けはこの間した通りだ。水軍の皆さんにご迷惑をかけないように!しっかり学んでくること!」
『はーい!』
「では解散っ」


きゃーと騒ぎながら駆けていく彼らに思わず頬が緩む。そうだ、沈んでいる場合ではない。今は授業中でありわたしはその教員でもあるのだ。ぱしんと頬を叩くと、隣から控えめに名前を呼ばれた。


「どうかしたかい?」
「あ、いえ」
「そうか。じゃあ私達も行こう。担当は以前決めた通り頼む」
「はい」


土井さんと別れて子供達が行った方に走ると、団蔵や虎若など将来有望な男前が荷物を運んでいた。逞しいね。

近くにいる水軍の方に話しかけると、海の男らしく爽やかな笑顔を向けてくれた。


「お疲れ様です。わたしも何かお手伝いすることはありませんか?」
「先生もかい?女の人に力仕事をやらせるわけにはいかないよ」
「大丈夫ですよ。力には自信があります」
「……そうかい?じゃあこれをあの小屋に頼むよ」
「はい!」


渡された荷物を持ち、団蔵達と同じように小屋に運ぶ。これ結構重量あるけど一年生も運んでるんだよね、凄いなあ。


「椎蓮さんもお手伝いですか?」
「ええ。団蔵は運ぶのが早いわね」
「そうですかー?10キロ算盤とか持たされてるからそんなに大変じゃありませんよ!」
「あら、逞しいわ」


この子将来鍛練馬鹿になりそうね。笑顔が眩しい。一通り運び終えると、彼らは別の仕事に向かった。わたしも彼らとは別行動だ。


110511
続きます
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