鬼灯 | ナノ

拾壱


久しぶりに忍術学園に行き、父上にいつも通り母上からの言伝を言い渡した。まあ内容は言うまでもないだろう。今日は仕事もないし、久しぶりに食堂のおばちゃんのご飯を戴こう。食堂に入ると、早速一年は組に見つかってしまった。


「利吉さんだあ!!!」
「やあ、一年は組の皆」
「また山田先生ですかー?」


ま、またって…。こんな小さい子供達にまでそう言われると流石に折れる。売れっ子のフリーのプロ忍とか言ってるけど実はナイーブなんだよ、労ってよ。


「あ、椎蓮さん」


きり丸が発した一言に、身体が一瞬で硬直した。周りの一年生も彼女の名前を呼ぶ。私は恐る恐る、ガチガチとしながら頭をそちらに向けた。下から「ひぃっ」とか聞こえたが知らない。私の目には彼女が映った。


「(……っ椎蓮さん…っ!?)」


嗚呼一年ぶりに見る彼女は更に美しく魅力的になっていた。遠方に行っていたと噂で聞いたがどうやら帰ってきたらしい。私は思わず彼女の真後ろに立っていた。昼食の乗った盆を持ち振り返った彼女は表情を変えず、ただ手元の食器がカチャリと鳴っただけだった。流石プロのくの一、私なんて足元にも及ばない。


「あ、あの…」
「こんにちは、利吉くん。久しぶりね」
「は、はい…っ」


椎蓮さんと、話せた…!ああ美しい椎蓮さんが目の前に。私はきちんと笑えているだろうか。彼女は私に挨拶をしたあと席につき、昼食を頬張り始めた。彼女の邪魔をしてはいけないと思いつつも、もしかしたらこんな機会はもうないかもしれないと思い、思い切って話し掛けた。


「椎蓮さ、ん」
「ん?」
「あ、の…」
「何?」
「えっと…い、いい天気ですね!!」


………って何言ってんだあああ!!!!思春期の男子かあああ!!!!あああ駄目だ羞恥で顔と目が熱い。後ろで一年生がこけた音がしたがこの際どうでもいい。彼女は呆れてしまっただろうか。しかし彼女はキョトンとした後、ふわりと微笑んだ。きゅーん!!


「そうね。いい天気」
「あ、はは…」
「?」


美しい笑顔だ…っ。しかし気を遣わせてしまっただろうか。私の口からは渇いた声しか出ていなかった。私が固まっていると、騒がしい足音と共に食堂の入口に見知った彼がいた。


「あ、いたいた。椎蓮先輩ー」
「秀作。どうしたの?」


し、秀作…?それはもしかして彼の、小松田くんの名前か。どうしてあんなにも自然に、親しげに話せるんだ。何て羨ましい…!椎蓮さんは彼と会話をしたあと、急いで残りの昼食を食べ食堂を出て行った。


「あ、利吉さんだぁ!」


……今来ないでくれ。嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。自分でも分かるほど殺気立ち彼を睨んでいるのだが、当の本人は気にならないのか気付いていないのか(確実に後者だ)、にっこりと笑いながら私に話し掛けてきた。


「?どうしたんですかー?」
「……………いや。それより小松田くん、彼女とは…知り合いかい?」


直接聞くのは何故か躊躇われ、少し遠回しに質問した。「彼女?」「……椎蓮さんだ」分かってくれ。


「椎蓮先輩は僕が一年生の時に六年生だったんですー。とっても尊敬してるんですー!!」


ああそうか在学中の…、ってことは彼女のあの桃色の忍装束を見たということか…?う、羨ましいっ!!


「利吉さんは椎蓮先輩が好きなんですかー?」
「な…っ!?そ、そんなわけがないだろう!!…いや忍として尊敬しているがそんな…!!」
「そうですかー。よかったー!」
「え?」


笑っている。彼は笑っているが目は笑っていない。何だこの威圧感は。


「いくら利吉さんでも椎蓮先輩の隣は似合いませんよー。へたれは特に引っ込めって感じですー」
「………こ、小松田くん…?」


え、何この子。こんな子だったのか。普段へにゃへにゃしてるくせに一丁前に男の顔だ。それを見て私の闘争心にも火が点いた。


「ふん。誰がへたれd「あんたですよ」………」
「………」
「君は自分が正しいとo「ええ思ってます。僕はずっと見てきました。先輩に相応しい人がいずれ現れます。でもそれは確実に利吉さんじゃないですよ」………」


心が折れそうだ。彼はこんなに強気だっただろうか…。


「こ、小松田さん!そろそろ門に行かなくていいんですか!?」
「そ、そういえば吉野先生が呼んでた気もしないでもないし!!」
「あっ、そうだね!ありがとうみんなー」


小松田くんはいつもの顔に戻ってから食堂を出て行った。感謝するよ乱太郎、きり丸。……これからは椎蓮さん関係の話題を彼に振らないようにしよう。恐らくこの場にいた全員が思ったのだろう、その後食堂は終始静かだった。

110220
利吉さんはへたれ。書いててすごい後悔した書きにくい。
戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -