鬼灯 | ナノ



いつも以上にざわめく食堂に不思議に思いながら中に入ると、度々学園に来るらしいフリーの彼がいた。一年生に囲まれているから懐かれているようだ。微笑ましいな、と笑いながら昼食の乗ったお盆を貰って振り返ると、目の前にその本人がいた。思わずお盆の食器が鳴る。


「あ、あの…っ」
「こんにちは、利吉くん。久しぶりね」
「は、はい…!」


山田先生の御子息である彼は礼儀正しい。まだ若いのに有名なフリーのプロ忍だ。挨拶もそこそこに、席に着いて昼食を摂り始める。わたしはこのきんぴらごぼうが好きだ。


「椎蓮さ、ん」
「ん?」
「あ、の…」
「何?」
「えっと…い、いい天気ですね!!」


利吉くんは顔を真っ赤にさせて大声でそう言った。あ、後ろの一年生がこけてる。ああたしかにいい天気ね。


「そうね。いい天気」
「あ、はは…」
「?」


何なんだろう。噂では凄く機敏で仕事にミスは無いって聞くけど、仕事とプライベートは違う人なのかな。まだ数回しか会ったことないからわかんないけど。


「あ、いたいた。椎蓮先輩ー」
「秀作。どうしたの?」
「お食事中すみませーん。学園長先生がお呼びですー」
「え、本当?ありがとう、すぐ行くわ」
「はーい。あ、利吉さんだぁ!」


ほうほう、秀作と利吉くんは仲が良かったんだね。ご飯を急いで掻き込み、おばちゃんに声を掛けてから急いで庵に向かった。



***********



「お呼びでしょうか、学園長」


許しを得たので中に入ると、学園長と土井先生、山田先生がいた。授業のことかな、と思案しながら学園長の前に座ると、学園長はゆっくりと口を開いた。


「うむ、今度一年は組で林海学校に行くんだが、それにお前も付いていってほしいんじゃ」
「わたしが?」
「山田先生がその日に別の用が入っていてな。他の先生方も授業があるし、お前が適任じゃった」
「林海学校、ですか」
「兵庫水軍の方々に頼んで、水軍の仕事を体験させてもらうんだ。海だぞ」
「海…」


海、か。こちらに生まれてから一度も行ったことがない。恐らく、無意識に避けていたのだ。……思い出すから。でも、いつまでも逃げている訳にはいかない。いい加減いい歳だし。


「……わかりました。何をすれば良いのですか?」
「何、生徒と共に行き手伝って来くるだけじゃ」
「そうですか…」


海に行くのはあまり気が進まないけど、新一年生と仲良くなるにはいい機会かもしれない。これはこれで楽しみだ。


「日程と時間は後に知らせる。下がっていいぞ」
「はい、失礼しました」


退場すると、ちょうど鹿威しがいい音を立てた。……何か山に行きたい気分。


「裏山辺りかなー」


何の予定もなしにわたしは塀を越えた。すぐ戻る予定だから平気だろう。あっという間に裏山の頂上に来ると、ばたりと倒れ込んだ。今日は天気がいい。心地好い風に目を伏せると、懐かしい声が聞こえた気がした。
110213
なんぞこれ
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