ひかげぼっこ | ナノ


▽ マダ、マダダ


「えりかさん」


洗濯籠を抱えて物干し竿の前まで来た時、誰かに呼ばれて振り向けば作兵衛くんと数馬くん、孫兵くんが真剣な表情でこちらを見ていた。何かあるな、と思いつつも笑顔で返事をすると、彼らは今度は弱々しくまたわたしの名前を読んだ。


「えりかさん…」
「え、ど、どうしたの!?」
「うぅ…っ」


急に泣き出した数馬くんにぎょっとしたが気を取り直して彼らに駆け寄った。



*********



落ち着きを取り戻した彼らはゆっくりと事の成り行きを話し出した。数馬くんと作兵衛くんは委員会。彼らの委員会は六年生が委員長を勤め、その間の四五年生がおらず自分達が次に下級生を纏める立場にある。所が頼れる委員長は天女様に夢中で、最近委員会を休みがちで委員会らしい委員会活動はできない状態らしい。


「どうしても無理なのは五年生にも手伝ってやっていますが、やっぱり食満先輩じゃないとわからない要領がありますから…」
「僕の所も、善法寺先輩じゃないと薬草はかってに弄るなって言われてるから。ほとんど何もできない状態で…」


今、委員会のほとんどはこの状態だ。五年生が委員長を勤めている委員会はまだそう変わりはないらしいけど、六年生がいない状態でいきなり四年生以下の生徒が後輩を纏め指示を出すのは難しい。特に三年生はまだ下級生、委員長の代わりは重荷なのだ。


「作法委員会は今活動を停止しているらしいです。立花先輩は天女様に夢中だし、綾部先輩はそれが嫌で穴を掘ってますし、藤内はどちらかと言えば天女様だし…」
「一年生は?」
「兵太夫はわかりませんが伝七は天女様が好きらしいです」
「そっか…。あれ、孫兵くんの委員会はハチがいるよね」
「僕はジュンコが嫌がるから嫌いなんです。あの人にも、気持ち悪いと言われましたし。えりかさんはジュンコが怖くないんですか?」
「怖いわけじゃないよ?ひんやりしてて気持ちいいしね」
「………よかった」


しゅるりと腕を伝って首に巻き付いたジュンコは可愛い。頭を撫でるとしゅる、と舌を出した。どうやら嫌われていないらしい。


「……本当に、あの人天女様なのかな」


ぽつりと数馬くんが口を開いた。


「美しくて優しくて天から降りてきた、正に天女様だ。でもいつも男に囲まれてにこにこしてるだけで仕事もしない」
「天女って人を幸せにしてくれるんじゃねぇの?自分だけ幸せになってんじゃねぇよ」
「あの甘ったるい匂いのせいかな、空気が汚くなる」


段々口調がきつくなる二人を見てはは、と渇いた声が漏れた。そうだ、数馬くんと作兵衛くんは黒いんだった(それがわたしに向けられるものじゃなくてよかった)。


「先輩達は悪くない。悪いのは得体の知れないあの女だ」


ぽつりと呟いた孫兵くんの言葉にそうだ、と二人も頷いた。わたしは何もすることができない、否しようとしない。彼らの中にどんどん広まっていく負の感情をどうすることもできない。

わたしと彼女は違った。わたしは林の中にいて、最終的には生まれ変わってこの世界に来た。でも彼女は空から降ってきた。典型的に、何かが違う。


「(まだ、まだだ)」

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