ひかげぼっこ | ナノ


▽ 選択ノ結末


「えりかちゃん、これお願いね」
「はーい」


慌ただしい昼食の時間、食堂はいつも通り騒がしく賑わっている。いつもと変わらない光景だ。一週間前、天女の彼女は学園から姿を消した。六年生は必死に捜したそうだが、結局何の手掛かりも見つからなかった。わたしが真っ先に狙われたけど、三年生や四年生が「ずっと側にいた」と言ってくれたおかげですぐに誤解は解けた。五年生は六年生と一緒に合同実習に出ていたからありえない。一年生の誰かが、天に還ったんですね、と呟いた。「天に還った」。彼女の着ていた制服は無くなっていたし、綺麗に姿を消した彼女。天女だから、天に還った。皆認めた。それで済んでしまった。

彼女が学園に訪れ消えるまで十日間。たった十日。嫌に長い十日間だった。それでも彼ら、特に六年生は彼女が消えてから三日目、わたしに頭を下げた。


「すみませんでした」
「え、え!?」
「俺達、どうかしてた。よく考えれば得体の知れない女を優先し、世話になっている貴女を傷付けた」
「私達は愚かだ。許さなくていい。ただ、謝らせてくれ」
「……顔を上げて」
「……?」
「わたしはもう、怒ってないよ。何を信じるかは自分自身だし、選ぶのは自由。でも、その結果失った物もあるでしょ?」
「…こう、はい…」
「行ってあげて。まだ取り戻せる。きっと待ってるはずだから」
「……、はいっ!!」



何が、彼らを変えたのだろう。きり丸くんは、甘いくて重い空気が無くなったと言っていた。それは彼女が持っていた物だろうか。彼女が消えたから、彼女の依存から解放された?


「(考え過ぎかな…)」


今やあの十日間がなかったかのように皆笑顔で過ごしている。彼女が存在しなかったかのように。わたしも、もしかしたら彼女と同じ立場だったのかもしれない。ただ運がよかっただけで、受け入れられたのかも。恐らく同郷であっただろう彼女を思い、そっと目を閉じた。彼女は寂しかったのかもしれない。でも助けなかったのはわたしの選択、その結果。結局は自分を取った、その選択は彼女を殺し、自分を守った。卑しい人間だ。でもそれが運命だと言うならば、この世界に異端者はいてはいけないのかもしれない。


「えりか」
「兵助、」
「明日、よかったら町に行かないか?旨いと評判の甘味屋を食満先輩に教わったんだ」
「行く行く!」


ごめんね、狡いでしょう。でもどうか天に還って、また産まれる所で愛される事を願うよ。貴女は貴女の道で、わたしはわたしの新しい道を歩く。わたしの人生はまだまだこれからだから。

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