▽ ブラックアウト
顔に冷たいものが掛けられて意識が一気に浮上した。それと同時に胃から競り上がってきて吐いた。
「うわっ…」
「俺達がやらなくても死ぬんじゃないか?」
しぬ…?声の方を見ると、五年生と喜八郎くんが私を見下ろしていた。何、何が起きてるの?腕とか縛られてるし、みんな、怖い。確か魔女にお粥を無理矢理食べさせられて、雷蔵くんが助けてくれて、それから覚えてない。だから雷蔵くんに助けを求めた。
「ら、雷蔵くん…」
「気安く名前を呼ばないでください、気持ち悪い」
何が?何が気持ち悪いの?私?何、で?
「ひ、酷い、よぉ…」
「酷い?何が?粥に毒を盛ったことが?それは酷いね」
雷蔵くんの顔が歪む。怖い怖い怖い!!どうして知ってるの?酷いの?だって雷蔵くん達を騙してたあの魔女を消そうとしただけだよ?私が毒を盛ったって知ってるなら見たでしょ、あの女の本性!笑ってたのよ!そう叫びたくても私の口からは変な呻き声しか出なかった。舌が回らない。
「私達、あんたが嫌いなんだよ」
「だから消えろ」
三郎と八がそう言うと、肩に激痛が走った。狼が肩に噛み付いていて、血が、飛ぶ。痛い痛い痛い!!何で!?何でこんなに痛い思いしなくちゃいけないの!?むしろ魔女が受けるべきなのに!!
いつの間にか視界は暗くなっていた。光の差す上を向けば兵助くんがこちらを見下ろしていた。
「あ…あ…へい、す…」
「名前を呼ぶなと言われなかったか。俺は俺が信じた者しか認めない。俺はお前の物じゃない」
「そうそう。“二番目に好き”な私もね」
べり、と顔を剥がした魔女。でも魔女の顔の下にあったのは三郎の顔だった。う、そ…。魔女じゃ、なかったの…?
「、あ…!?なん…っ」
「愚かだな。さあ、そろそろ終わりだ」
兵助くんが何かを取り出して腕を振りかぶった。殺される。いやだ、いやだいやだいやだ!!どうして殺されなくちゃいけないの!!私は愛される為に来たのに!助けて、助けよ!文次郎!留!近くにいて守るって言ったじゃない何でいないの!死にたくないまだ死にたくないいやだごめんなさい私をアイして愛してあいしてコロサないでまだ「あーあ」
最期に聴こえたのは、何時か聞いた退屈そうな声だった。
110127