ひかげぼっこ | ナノ


▽ 嘆キハ我等ニ


私達は五年生が何をやるのか、漠然とだがわかっていた。だから買って出たのだ、彼女の傍にいることを。


「滝ちゃん、わたしもう元気だよ。だから食堂に…」
「何言ってるんですか!昨日まで熱出して寝てたんですよ、今日まで安静にしててください」
「えー…」
「そうだよ、えりかちゃん。それに病み上がりで料理作って皆に移したらどうするの?」
「う、ぐ…っ」


えりかさんの頭を濡らした手ぬぐいで拭くタカ丸さんはニッコリと笑ったが、その笑みは威圧するようで恐ろしい。彼女もさすがにそれ以上は何も言わなかった。


「お水です、どうぞ」
「ありがとう、三木くん」


三木ヱ門はどうやら吹っ切れたらしい。こいつは初め天女に惚れていたが、ユリコを馬鹿にされたとかで昨日までじめじめと沈んでいた。五年生が動く事を知った時彼女を守らずここにいるのは、目が覚めたからだろう。タカ丸さんはよくわからない。


「でもごめんね、わざわざ部屋の空気の入れ換えとかさせちゃって…」
「いいんですよ。熱が篭ったままだと良くなりませんからね」
「ていうかそれ何回目ですか」
「さ、三回目…?」
「四回目です!!」


もう、と言いながら三反田は薬の入った包みを枕元に置いた。ちなみにこの部屋は私と喜八郎の部屋で今日一日の彼女の仮部屋だ。喜八郎は出ていていないが(例の件には彼も協力しているからだ)代わりに私達四年が三人と三年の三反田と富松が彼女の身の回りの世話、というか傍にいるのだ。勿論今は休憩中であり授業には皆出ている(えりかさんは授業をサボることを極端に嫌うから)。喜八郎は別だが。


「もう少しで次の授業が始まりますね」
「そうだな。教室に戻るか」
「ああ。それではえりかさん、くれぐれも食堂に行ったり歩き回ったりしないで安静にしていてくださいね」
「わ、わかったよ」


えりかさんを見遣ると目を逸らしている。これは見張り役が必要かもしれないがその必要はないだろう。先程遠くで女の悲鳴が聞こえたから。耳を澄まさないと聞こえない程遠くで。


「また後で来ますね。その時は昼食を持って来ますから」
「うん、ありがとう」


彼女は優しい。もしかしたら気づいているのかもしれない。私達が良かれと思ってのこの行動は、彼女にとっては苦に成りうるのだ。それでも止めないのは、彼女と学園の平穏を望んでいるからであり、私達の我が儘だ。この学園に天女は要らない。ただ食堂で働く彼女の笑顔があれば平穏に暮らせるのだ。


「(あの女は平穏の妨げになる。ならば、)」


還って貰うしかあるまい。きっと、二回目の鐘が鳴る頃に全ては終わる、終わらせる。そこからまた、私達の時間が始まるのだ。

110112
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -