▽ 一歩、サヨナラ
歩く度にカタカタと手元の食器が鳴る。今日は上級生が合同実習で学園にいない。そのせいか学園は静かで私にとっては暇でしょうがない。あれから二日、魔女は熱が下がらなかったらしく、部屋から出ていない。三日目の今日はどうだか知らないけど寝ているとかで、小松田が昼食を持っていこうとしてたから私が買って出た。もちろん「仲直りしたくて…」って可愛く言った。当然ただであげるわけじゃない。医務室から適当に取ってきた草とか粉を料理に混ぜておいた。苦しむのを見るのが楽しみ!
何も言わないで戸を開くと、魔女は布団に横になっていた。何よ、私がわざわざ持ってきたっていうのに何も言わないわけ。近くに寄るとようやく私に気付いたみたいで布団から目だけを出して笑った。
「ありがとう。まさか持って来てくれるなんて思わなかったよ」
「そうですねぇ。この間のお詫びですよぅ。食べてくださぁい」
「うん、そうする」
そう言うと魔女はむくりと起き上がり、お粥の入ったレンゲを手に取って口元に近付けた。そしてそのまま口を開いて含む。――筈だった。
「っ!?ぐ、ぅっ!!」
そのレンゲは私の口に突っ込まれた。冷ましていないそれは熱を含んだままで私の口内を容赦なく焼く。でもレンゲは離されてもそのまま口を手で押さえられ吐き出すことができない。抵抗したけど遂に私はそろを飲み込んでしまった。喉が焼けるように熱い。たぶん舌も火傷した。
「ひゃ…、ひゃにすりゅろよ…っ!!」
口中が痛くて舌が回らない。涙目で魔女を見れば、本当に魔女のようにニヤリと笑った。その笑みに背筋がぞくりとして思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
「美味しかった?自分で隠し味を加えてくれたんでしょう?」
「ひ…っ」
そうだった。どうしよう、伊作が「医務室には毒薬もあるから手を出すな」と言っていたから、もしそれが入っていたら。
「あ、ぐ、おぇ…っ!!」
気持ち悪くなって途端に吐き出した。一度吐き出したらなかなか止まらず、何度も吐き出し遂に胃液まで逆流してきて口の中が酸っぱくなった。
「あーあ、わたしの部屋汚しちゃってさ。どうしてくれるの?気持ち悪い」
「あ、あ、」
「何?」
「た、助け…」
「えりか?」
スッと戸が開き、そこにいたのは雷蔵だった。いや、見ないで、助けて。
「ど、どうしたの!?」
「彼女、具合が悪いみたいなの。医務室に連れて行ってあげて」
「は、はい」
雷蔵の手を引かれて立ち上がり、魔女の部屋を離れた。すぐに泣きつく。
「あ、あのね、えりかさんに、お粥、口に、」
「わかりました、まずは医務室にいって薬を貰いましょう」
にっこりと微笑まれ、やっぱりあの女は魔女だったんだって実感した。きっと雷蔵は魔女の呪いから解放されたんだ。だってこんなにも私に優しい!でもこっちは医務室じゃないんだけど、どこ行くの?
101227