ひかげぼっこ | ナノ


▽ 輪


俺は始め、えりかが嫌いだった。兵助が連れてきて、兵助は彼女のことを得意げに話す。彼女は事務員兼食堂の手伝いになり話す機会は幾らでもあった。でも俺は極力彼女には関わらず遠目で彼女の話す彼等を見ていた。六年生が、四年生が、下級生が、そして同級生達も仲良くなり俺だけ取り残された様な気持ちだった。だから嫌いだった。でも、ある日それが覆された。


「あれ…?」


その日は委員会がなくなって学園内をぶらぶらとしていた。食堂の裏口を抜け外に出ると奥に倉庫がある。それは朝仕入れた野菜を仕舞って置くための倉庫で、ご飯の支度前におばちゃんが毎回取って来るのだ。その倉庫の隅にうずくまる人物を見かけた。気配を消して近付くと、それはあまり関わりたくない人だった。その人は大根を抱えてぼそぼそと何か呟いている。変な人だ、と俺はこの場を去ろうと踵を返した時、その角度から見えた彼女の足元に目が行った。そこには魚を食べる子猫がいた。よく耳を澄まして声を聞く。


「ごめんね、わたしの分しかあげられないの。我慢してね」


子猫を撫でる彼女の瞳は優しかった。俺は何を勘違いしていたんだろう。彼女は優しいから、その包容力があるから受け入れられたのではないか。俺はただ俺達の輪に入ってきた彼女を受け入れられなかったのだ、不変を望んでいたから。改めて自分が身勝手で子供っぽかったと自覚した。あの三郎までもが懐いたのだ、俺が避けてどうする。ゆっくりと近付いて肩越しに声をかけた。


「猫、可愛いですね」
「うわっ!お、尾浜くん!?」


びくりと身体を強張らせて彼女はこちらに振り向いた。本気で俺の存在に気づいていなかったことがその顔からわかる。間者なのではと疑っていた俺は何だったのか。


「いつもここであげてたんですか?」
「え、あ、…うん。さすがに飼えないからせめてご飯だけでもって…」
「そうなんですか」
「……あの、他の人には言わないでね」
「何でですか?」


そう問えば彼女は視線をさ迷わせながらぼそりと呟いた。俺への態度が余所余所しいのは俺に嫌われていると思っているのだろうか(実際きちんと話したことはなかったしな)。


「……わたし居候の身だから勝手なことはできないでしょ。猫を飼うなんて以っての外だし…もし知られてこの子を捨てろなんて言われたら…」
「……わかりました。他言はしません」
「あ、ありがとう…っ」
「ただし、条件があります」
「?」


彼女は僅かに身構えながら俺の次の言葉を待っている。俺は静かに笑いながら人差し指を猫に向けた。


「その猫の世話は、俺もします」
「え!?」
「だから俺達の秘密ですよ」


そう言えば彼女はきょとんとしてから満面の笑みになって、ありがとうと呟いた。


「それと、俺のことは勘右衛門と呼んでください」
「え、え!?」
「ほらほら、名前」
「…か、勘右衛門…くん」
「はい、えりかさん」
「!」
「猫、可愛いですね」


再びそう言えば彼女はまた恥ずかしそうに笑った。兵助達の気持ちがこの時初めてわかった気がした。



**********



「――以上だ。異論はないな」


暗い一室で黒髪の彼がそう問えば、周りにいた俺達は迷わす頷いた。あの時のことを俺は忘れない。えりかは兵助の彼女であり俺達の仲間だ。その輪を乱そうとし彼女を傷付けたあいつは既に俺達の手中にある。彼女が寝ている間にあいつは天に還るのだ。


「えりかは、俺達の大切な仲間だ」
「私達を受け入れてくれたから、私達も受け入れた」
「彼女が平穏を望んでいる」
「なら、平穏を取り戻すために」
「俺達は根源を根絶やしにする」


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