ひかげぼっこ | ナノ


▽ 彼等ノ囁キ


先輩達が動き始めたらしい。行動するのが少し遅かった気がするけど、きっとあの人を悲しませたくないから何もしなかったんだと思う。でも天女様はあの人を傷付けてしまった。それが開始の合図。だってあの人は、五年生の先輩達の大切な人だから。久々知先輩と恋仲なのは学園の人達全員が知っているし、公認だって分かっている。あの人は人を貶める人じゃないって知っている筈なのに、六年生の先輩はそれを忘れてしまった。あの中在家先輩も天女様にお熱で委員会に来なくなった。知ってますか、先輩が来なくなってから不破先輩と怪士丸と俺しか委員会をやっていないんですよ。不破先輩もたくさん悩んでいるんです。どうして気づかないんですか。天女様しか見えないんですか。


「どう思う?」
「どう思う、って…僕に言われても」
「だってさー」


天女様が空から降って来てから、学園は何かに包まれたような感覚がした。何とも言えない甘く纏わり付くような。俺は嫌いだった。それに天女様は上級生しか相手をしないみたいで、特に一二年生は軽くあしわれるだけだ。


「僕は天女様が何をしようがどうなろうが興味はないよ。ただえりかさんが傷付くのは嫌だなぁ」
「だよな。熱、下がったかな」
「後でお見舞いに行こうか」
「そうだな」


たぶん、明日の夜五年生はいなくなる。そして何かが終わる。俺達の知らない所で知らない内に終わるのだ。でも俺は何もしない。だってえりかさんが笑っていればそれでいいんだから。だから終わるのを待ってる。近い内に全てが元に戻るのを。


「早く消えないかな、天女様」
「庄ちゃんったら相変わらず冷静ね」




*********




先輩達が動き始めた。あの人が倒れたからだ。その原因は濡れたままで身体が冷えたからと、過度の疲労。四年の綾部喜八郎先輩が言うには天女様が狂ってえりかさんに水をかけたり自分にかけたりしたらしい。とんだ気違いだ。よく考えなくてもえりかさんは人を虐めるなんて下種のやることは絶対にしない。調子に乗るなって言ったんだって?誰のこと言ってるんだろうね。


「馬鹿だよねぇ」
「天女様?」
「言うまでもなく」
「だよな。でもその嘘を信じる先輩達もどうかと思うぜ」
「心酔しちゃってるからね」


ほの暗い部屋の中で僕達はため息を吐いた。今は皆寝静まり虫の音が聴こえるだけであとは僕達の声だけ。でもきっと今起きているのは僕達だけじゃないことは分かっていた。


「ごめんね孫兵、部屋借りちゃって」
「いや、僕も今日のは思う所があったからいいよ。藤内や左門達は?」
「起きる気配はなかったから、今頃部屋でぐっすりじゃない?」
「でもあいつらも動揺してたな。天女が好きつっても、えりかさんのことは嫌いになった訳じゃねぇから」
「微妙な所だな…」
「六年生は天女様?」
「もちろん」


はぁ、と再びため息。僕達は別に六年生が嫌いになった訳じゃない。尊敬してるし、頼りになるよき先輩だ。でも今は幻滅したしなるべく関わらないようにしている。先輩達はそれに気づいていないのだろうか(恐らく気づいていない)。恋情とは可愛らしい言い方で、彼等のそれは実際は盲目的な崇拝に近い。だから今までお世話になった彼女の存在を否定するのだ。


「僕は前のように戻りたい。藤内達と騒いだり先輩達と委員会を楽しみたい」
「ああ。俺達は俺達の学園生活があるんだ。それを崩されてたまるか」
「僕だってジュンコが危険な目に遭う学園は嫌だ。だから、」


僕達も行動を起こすのみ。

101220
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -