ひかげぼっこ | ナノ


▽ 風化シテクレタラ


違和感を感じたのは昼食の時間だった。いつもなら賑やかに騒いでいる生徒達が静かなのだ。いや、喋っている人もいるけど、こそこそとしている。特にくのたま達だと気付いたのは、忍たま六年生と天女が食堂に入ってからだった。彼らはカウンターにいるわたしを無視しておばちゃんに注文をした。


「何あれー」
「えりかさん無視とか、幼稚?」
「六年生だからってかっこつけてんじゃない?」
「ていうか天女様もお姫様気分ってやつ?うっざー」


まるでわざと聞こえるように言っているみたい。彼女達はこちらをちらちらと見ながら言葉を続ける。くのたまの子達は好きだけど、年頃の女の子らしく陰口はあまり頂けない。天女を見れば、六年生と同じく顔を真っ赤にさせてくのたまを睨んでいる。彼らからは見えないのだろうか。まあいいや、そんなことより。


「茉美ちゃん」
「あ、何ですかぁ?」
「貴女今日食堂のお手伝いだった筈だけど、何で来ないの?」
「え、あの…」
「明日はおばちゃんがいないんだから、ちゃんと来てね」
「………はい」


くのたまからはちょっとした歓声が挙がった。うん、わたしもちょっとすっきりしたかも。目の前の彼らには喧嘩を売ったことになるかもしれないけど、口だけなら勝つ自信はある(仙蔵くんは厳しいかもだけど)。伊達に長く生きてない。


「あんた…」
「はい、A定食三つとB定食四つ。後ろが支えてるから早く行ってね」


そう言えば文次郎くんや留三郎くんは何も言い返して来なかった。仙蔵くんと長次くんは何を考えているのかわからないし、小平太くんはムスッとしている。中心の彼女といえば般若の如き形相でこちらを睨んでいる。そんなの、兄上が本気で怒った時より全然易しい。


「(まだまだ子供だなあ…)」


わたしも、彼らも、彼女も。とりあえずこれから何事もなく風化してくれたらいいのに。そう思いながら、笑顔でこちらに手を振ってくれるくのたま達に笑顔を返した。


でもきっと、彼女の存在がそれを許さないことを、わたしは知っている。

101122
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