■ 黄瀬姉弟
黄瀬姉弟
「おはようございまっス!!」
朝練に現れた黄瀬くん。
あ、こんばんは。黒子テツヤです。
今日の黄瀬くんは本物のようです。一先ず安心しました。ボクは名前さんに会いたかったのですが仕方ありません。
「黒子っちー!」
「黄瀬くん、ストップです!」
ストップと言ったが彼は走って来る。あ、と声を漏らす前に、ボクと黄瀬くんの間をすり抜けたボール。
思わず腰が抜けた。
黄瀬くんがへたりと座り、ボクはその向かいでカタカタと震えていた。
「涼太ァ…」
赤司くんがユラユラとこちらへ来て、黄瀬くんの胸倉を掴む。
「あ、赤司っち!?俺何かしたっスか!?」
「どんなふうにカンニングしたんだい…?どこの女性教師を口説いた…?」
もはやオーラが凄すぎてボクは直視できません。
因みに、昨日のテストの結果、500点満点をとった黄瀬くん。正しくは黄瀬くんの姉の名前さんですが。
一方の赤司くんは凡ミスにより498点。
これは彼にとっては悲しいしショックだろう。
「お、お俺!姉ちゃんにベンキョー教えてもらったんス…、」
テストの結果を知らない黄瀬くんはとんだとばっちりだ。
「へぇ…、涼太のお姉様はそんなにすごいのかい?」
「東大受けて落ちて、今落ち込んでるスけど…」
「…………今日、皆で涼太の家に行く」
ボクは目を見開いた。名前さんに会うチャンスではないか。
「ダメッ!赤司っちでもそれはダメっス!!」
「僕も、涼太みたいに頭が良くなりたいなァ…」
「赤司くん…、怖いです」
***
「姉ちゃん…、友達に脅されます」
『……あっち行け』
部屋の向こうから聞こえる声にボクはドキリとした。まさしく名前さんの声だ。
「お願いっス!!マジ殺されそうなんス!!!!あ、一万!!」
『……金で釣ろうだなんて馬鹿だね。…二万円』
釣られない宣言かと思えば、実は釣られていた名前さん。
部屋から出てきた名前さんは思ったより小さかった。踵には絆創膏が貼ってある。ガーゼが血まみれだから厚底で靴擦れしたのだろう。
「二万円…、今月のこずかいがあああ!姉ちゃん鬼畜っス!!」
『黙れ!大体なんだよ!友達に脅されてるって!!』
かわいらしい部屋着にそぐわぬ言動である。ボサボサの金髪が揺れた。
「こんばんは。涼太のお姉様。僕は赤司征十郎と言います」
キラキラの笑顔で言い放った赤司くんに名前さんの顔が固まる。
『……友達連れて来てたんなら一言いえよ。馬鹿涼太』
「言ったっス!」
ちょっと待てと言って名前さんが部屋へ戻る。
5分くらいで出てきた名前さんはばっちりオシャレしてメイクもしていた。
黄瀬くんに似て美形だ。
『で?何の用?むさい男集団のリーダー、赤司さん』
名前さんはビビっているのかと思えば強気に言い放った。
「いやぁ、涼太がテストで学年一位になったから、どんな勉強をしたのかと質問したら、お姉様に教わったと聞いたので」
『私は何もしてません』
真顔で名前さんが言って部屋へ引っ込もうとした。
それを赤司くんが許す訳もなくドアを引っ張る。
「是非とも勉強を教えていただきたいな、と思いましてっ!!!!」
『お引き取りくださいいいっ!!…ハッ!?』
突然、パッと名前さんがドアを離したため、赤司くんは狭い廊下に放り出された。
「あぁ!?姉ちゃん、赤司っちに何てことを!?」
『くく、く黒子きゅ!?』
真っ赤になってボクを見ている。
むくりと起き上がった赤司くんはどういうことだと僕を見る。
「あ、赤司くん、名前さんとは前に図書館で会って…、」
冗談は苦手だ。名前さんを見ると、事の重大さの気が付いたらしい彼女は口をパクパクさせた。
『黒子きゅ…、黒子くんとはお付き合いさせていただいてますっ!!』
……………え。
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