■ 彼のこと。


テスト期間はやはり部活は休みだ。
親に気づかれないようにするためとはいえ、流石に早過ぎる。
いろいろごまかすためにしたメイク。厚底と超高いヒールをごまかした靴を軽く引きずりながら懐かしい校舎を歩く。

『はぁ…』

「悩み事ですか?黄瀬くん」

突然横からした声。当然私は驚く。

『のわああぁあっ!?……えと、黒子っち……(だっけ?)』

声を低めに出してのけ反る。いつもよりバランスが悪くてフラフラとしてしまう。

「おはようございます。珍しいですね。部活でもないのに朝早くに学校に来るなんて」

『あー…、俺ドジ踏んで朝練あるって寝ぼけながら来たんス!!あははは…』

「頭大丈夫ですか」

『え!?』

「テンションがいつもと違います」

『………(テンション…、涼太って暗いのかな…)』


「じゃあテストで更に頭がボケないようにしてくださいね」

何故か彼の含み笑いが怖かった。












***











チャイムと共に社会の問題用紙をめくった。二日に分けて行われる中間考査。
一日目が始まる。
どんな内容なのかと思えば簡単すぎて笑いそうだ。

勘合札が用いられた理由を選択肢から選ぶ問題でも吹き出しそうになった。

選択肢には悪党と倭寇の区別をつけるためというのもある。

『(悪党と倭寇…。明の貿易船はどこ行ったんだよ)』

(笑)が語尾に付きそうだ。

2時間目の国語は自分が書いた課題作文に笑いそうになった。

『(涼太はこんなの書かないよなぁ〜。ぶふっ)』

課題作文に出されたお題は最近考えていたこと。
私は最近ルービックキューブを数学的に考察していることを書き、更にルービックキューブのパターンと確率について220字で説いた。
まるでレポート状態。

そして理科。
こちらは得意分野だ。高校では理数科を専攻していたくらいだから自信はある。

なかなかに楽しい。久しぶりに楽しいと思えた。
地獄の三日間を忘れられるくらいに。

チャイムが鳴り響く。少しニヤニヤしながら答案をだした。

そして一日目のテストが終わる。このまま早退しようかと思ったが久しぶりに校内をブラブラと歩くのも良い。

私は教室を出た。途端に廊下にいたケバい女の子に囲まれる。

『!?』

「黄瀬くぅーん」

『!!??』

あまりに甘ったるい香水と声に私は固まる。

『な、なんスか?』

「家庭科でお菓子作ったのぉ」

すると女の子達が私も作っただの騒ぐ。
どう切り抜けようかと悩んでいたと頃、今朝見かけた彼。私は指差して叫んだ。

『………あ―――――っ!!黒子っちいいいぃいいっ』

彼は驚いたように振り向く。同時に女の子は指差した方向へ振り返る。

『(今だっ!!)』

黒子くんの元へ走り手を無理に握って女の子の目から逃れた。












***











体育館まで来たが黒子くんのご機嫌が斜めだ。体育館の隅に並んで座る。

『そのゴメンっス…』

「馬鹿ですか。本当。ボクの休み時間どうしてくれるんですか。というか身長縮んでません?」

『っ!?』

バッっと彼を見る。もしかしてバレかけている!?

「しかも黄瀬くんじゃないですよね?」

『………ふごっ』

思わず話題を変えようと思考を巡らせたのが悪かった。
変なことを思い出して豚鼻をしたのだ。

「……………」

『……………』

恥ずかしくて俯く。顔が熱かった。男装をしていても中身はちゃんと女子だ。

俯いているせいで黒子くんが私の頭に触れたことも気づけなかった。そしてウィッグネットごと彼は私の髪を引っ張る。

自分の髪がフワリと落ちてきてやっと気づいた。


「あ、ウィッグだったんですね」

『!?な、何して!ちょっ、わわわ、私てっぺんハゲだからウィッグが無いと!?』

とっさに思いついた言い訳も虚しく彼のキスで私は脳がショートした。

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