■ 愛しましょう。
また、この感覚だ。血を吸い出される感覚。
『黒子くん…!』
嫌がっても止めてくれない。やはり彼は吸血鬼なのだと実感する。
「……ん」
黒子くんが漏らした声に私は反応した。黒子は突然、血を吸うのを止めて上半身を起こして口元に手を当てた。
『黒子くん?どうしたの?』
すうっと息を吸った彼は盛大にくしゃみをした。
何度も、くしゃみをし5、6回目で止まる。
「…最近、花粉症みたいで」
『ムード台なしだぞコラ』
ため息をついて、本棚の横のダンボールに目をやる。その中には大学受験の参考書がたくさん入っている。
黒子が名前の視線の先に気がつく。
「あの中身はエロ本ですか?」
『そんなわけないでしょ』
「いくら彼氏いないからとい『違うってば』
あまり思い出したくなかった。大学受験に失敗したこと。私は現実逃避をしている。本当は黒子とじゃれていて良いわけがない。
「…………」
表情を隠すように名前が起き上がる。
黒子は黙って名前の上から離れた。
『あのダンボールね、大学受験の参考書が入ってるの』
「……大学受験ですか」
『結果は察して。…私はオベンキョーだけが取り柄で唯一の友達。…それがないと両親に愛してはもらえないし、私自身を誰も見てくれない』
そう言って笑うと黒子は目線を逸らし、目を細めた。
「勉強が出来る貴女しか見てもらえないとでも言うんですか?」
『そうだよ。私は涼太とは違うの』
気にしないでと名前は言い、ダンボールを部屋の奥へ追いやった。
「ボクは優しくて弟想いな名前さんが好きですよ」
『ありがとう、そう言ってくれるのは涼太と黒子くんだけだよ』
黒子の心配そうな顔に名前は思わず手を握り締めた。
「……ボクの好きは恋愛感情の好きです」
黒子の真剣な表情に押されないように名前も言い返す。
『やめときなさい。私は就職もせずに引きこもってるだけの放浪人だよ。黒子くんの将来を潰してしまう』
黒子が名前に近く。
「どうして、こういう時だけ大人っぽく見せようとするんですか」
『黒子くんより大人だから』
生意気な事を言うな、と名前は笑った。
「ボクが名前さんを助けましょう。それなら将来云々は関係ないでしょう?」
黒子の手が名前の頬を包み唇にキスをする。
名前の驚いた表情と、瞳に張る薄い涙の膜が見えた。ぎゅうっと抱きしめると唇を離し、また首に噛み付いた。
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