■ メリィさんのお願い事
取り返しに来られたらマズイと思い、近所の公園で本をまじまじと見た。
合成革のハードカバーで色褪せが激しい。
タイトルはDiary。英語の本だろうかと裏表紙を見た。
底には"メリィさんのお願い事"と書かれた付箋紙がくっついている。
"この本を開いたらメリィさんがやって来る。メリィのお願いは本を開くこと。まず、メリィがお家を出たら連絡するね。
メリィがこの公園に来たら連絡するね。
メリィが貴女の玄関に来たら連絡するね。"
不気味すぎる。この付箋のメリィさんは名前が公園にいることを知っている上で話を進めている。
しかも黒子は本は開くなと言っていた。不思議な矛盾に一体黒子は何を思ってこんなゲームをしようと思ったのだろうか。
『(謎すぎる…)』
春休みが始まって三日。毎日、部活に追われる日々。家に帰ると歌のレッスン。
歌のレッスンはしばらく休もうかと名前は思った。
***
家に帰るとすぐに本をベットの下に隠した。
ふぅ、と息を漏らす。部屋の中に風が舞い込み、窓を見た。カーテンが揺れ、窓が開いている。
『…ありゃ、開けっぱなし』
窓を閉めると後ろから抱きしめられた。この逞しい腕とシャンプーの匂いは
『テツ…、いつからいたの?』
「今きたとこです」
耳元で囁く幼なじみはこんなことをしない。黒子はもっと純粋だと名前は勝手に思っている。
『テツ、セクハラしてるの?』
「違います。あ、でもボクも青峰ほどでは無いですがスケベです。男は皆そうですよ」
手が頬に触れた時、名前が黒子の異変に気づく。
『テツ?』
「…………」
こんなことしないはずなのに、付き合っているわけでもないのに、何故か態度も扱いもいつもと違う。
『どうしたの?テツじゃなかったら殴ってるとこだよ』
「…そうですか」
いま黒子が何をしているか分からずに名前が不安を感じた。
『……彼女いないからってダメだよ』
名前が腕を退かそうと軽く暴れる。
「……うるさい」
『あ、怒った?』
名前がニタァと笑う。
しかし黒子は頬に触れていた手に力を掛け、名前の顔を天井に向けさせる。
そして口づけた。
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