■ 誰そ彼

 家に帰ってきたのは10分程前。親は出張でそれぞれ居ない。
 幼なじみが家に乱入してきたのは5分程前。名前を見てから、機嫌が悪い。

『テーツーヤー、何怒ってんの?』

 名前に背を向けて寝転がっている彼は、反応しない。

『帰りが遅かったから?』

「…………」

 名前は黒子の肩を揺さぶったが、ピクリとも動いてくれない。

『もうッ!私知らないからね』

 ぶっきら棒に言うと名前はその場を離れようとする。

「名前」

 立ち上がりかけた名前を呼び止めたのは黒子で、名前は何?と答える。

「誰にやられたんですか?」

『え?』

 黒子がもそりと起き上がるとあぐらをかく。名前は黒子の目の前に腰を下ろした。

「わかりませんか?その傷は誰にやられたんですか?」

 黒子は名前の腕をとると、肘に着いている絆創膏を撫でた。
 次に首に貼られた絆創膏を撫で、頬に着いているガーゼ、目元に張り付く絆創膏、額にくっつくガーゼを順に触れていく。
 どれも血がにじんでいる。

『あー、これは階段から落ちただけで』

「本当ですか? 傷、よく見せてください」

 黒子が耳元で囁くと、名前は跳ね返そうと腕を突っぱねる。

『別にこれぐらい平気だからッ』

「うるさいです。近所迷惑になるので騒がないでください」

 軽くパチンと頬を叩かれ、名前は唖然とする。そうしている間に、ベリッと容赦無く目元の絆創膏を剥がす。

『イッ!?』

「あぁ、いきなり剥がすと痛いですよね、」

 今度は額のガーゼをゆっくりと剥がした。溢れてくる血をすかさず舐める。
 しみるような痛さに名前は余計に暴れる。

『いたいよ、テツヤ、やめて』

「誰にやられたんですか?なぜこんなに遅かったんですか?」

 同じ問いに答える間もなく、黒子は血を舐めとり、頬のガーゼを剥がした。

『ひっ、いた…、やめ、て』

「答えなさい」

 だんだん強くなる黒子の声に名前は怯えきって、口を開いた。

『隣の、クラスのッ!同じ委員会の子』

 黒子は額の傷にキスを落とす。

「そうですか、怖かったですね。ちゃんと制裁しておきますから」

 安心してくださいねと言う黒子が正気の沙汰じゃなくて、恐ろしかった。






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