■ 鬼ごっこ
いま私は人生最大のピンチに直面している。
早歩きをしても後ろからついて来る男子学生の歩幅はあまり変わらない。そう。異常に大きな図体で、お菓子をいっぱい抱えた紫の髪をしたバスケ部の彼。
同じ中学だけど彼とは無縁のはずだ。
もう私の家は通り過ぎた。随分と遠いところに来ている。
なんとか撒かないとヤバい。暗くなってきた。
帰宅ラッシュに当たるこの時刻は人が多い。
(………撒かないと、撒かないと、撒かないと)
なんども心の中で唱え、決心した。人混みの中に私は突っ込み走った。途中で人がまばらになり後ろを振り返る。
『あ…、れ?…いない』
後ろには紫の髪の巨体はいない。てっきり追いかけて来たかと思っていた。
『はああぁぁ…』
盛大な溜め息と共に緊張が解けた。
鞄から鏡を取り出して乱れた髪を整える。鏡の中の私は疲れた顔をしていた。同時に浮遊感に見回れ鏡を落とす。ドサドサと大量のお菓子も落ちてくる。
「つーかまえた!」
……捕まった
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