■ 斬殺
※流血表現あり
※ヤンデレな黒子
いつも明るく太陽の様な眩しい笑顔を振り撒く彼女はボクには遠い存在。
彼女がクラスメートのスポットライトを浴びればボクは当然のように影で小さく息をする。それくらい遠い遠い存在なのだ。
『黒子くん。図書委員の委員長さんが来てるよ!』
そんな名前さんの視界には必ずボクがいる。彼女曰くボクを見失わないようにするためだとか。
だから他人がボクへ用があるなら必ずと言っていい程名前さんが伝えに来てくれる。
ボクはそんな彼女が大好きだった。恋愛対象として。
見境なく接してくれる名前さんには感謝している。
ボクが少しでも笑うと大袈裟な程に喜ぶ名前さんはボクの大切な大切な宝物。
そんなことも知らずに名前さんは毎日を過ごす。
そんな何気ない日常が続いていたある日、ボクはたまたま中庭を通って読書に最適な場所を探していた。
そんな時、見てしまった光景。
思わず本を落としてしまった。
(ボクの名前さんが知らない男に…)
抱きしめられていた。
何とも言えず不快な光景に目を背けたくなった。しかしボクの宝物が汚されている。
(やめ…、やめて…くだ、さい……)
必死に願い続けた。しばらくして名前さんと知らない男が別れる。
名前さんは嬉しそうに頬を染めて知らない男に手を振っていた。
なぜ?なぜそんなに嬉しそうに手を振っているんですか?
自分でもわかるくらいに顔が酷く歪んだ気がする。
そんな時彼女はボクの存在に気がついた。
『おーい!!黒子くーん!!』
走って駆け寄って来る名前さんは嬉しそう。
「こんばんは。名前さん」
『こんばんはー!!こんなとこでどうしたの?』
「中庭で読書を」
『へぇ。優雅だね』
「そうですか?」
『うん!!』
嬉しそうにモジモジする名前さんは黒子に言った。
『わたしね、黒子くんに聞いてほしいことがあるんだ』
一層、頬を染めている名前を見て何が言いたいのかだいたい想像がついた。
だけど知らないフリをする。
『三年の先輩と付き合うことにしたんだぁ!黒子くんに一番最初に聞いてほしかったの』
いやだ。聞きたくない。
「そうなんですか。おめでとうございます」
早く別れろ。お願いだから。
『ありがとう!』
そんな嬉しそうな顔で笑わないで。
「お祝いしないとですね!」
ナニイッテンノ?ボク。
『本当に!?』
「えぇ。放課後に美術室に来てください。ボクがお祝いしてあげますよ!!」
そんなことしたくない…。本音とは逆の事を言ってしまう。
『うん!ありがとう!!放課後たのしみにしてるねっ』
そう言って走り去ってしまった名前さん。
どうしたら良いのだろうか?
落ちた本を拾って握り締める。ボクを見失わないように見てくれているのに、男として見られていないのだろうか。
放課後、告白してみようか。そうしたらボクのことを恋愛対象として見てくれるだろうか。
そんな醜い考えが頭を過ぎった。
放課後、特にお祝いすることもないと思ったボクは何も用意しないまま美術室に向かった。そこにはまだ名前さんはいない。
ボクはそこら辺の机に座り名前さんを待った。
3分程して引き戸が開く。
『黒子くん!』
嬉しそうな顔で駆け寄る彼女はきっとお祝いしてくれると心を弾ませているのだろう。
「それでは始めましょうか」
『うわぁ、どんなことしてくれるのかな?』
「ふふ、秘密です」
ボクは一旦準備室に入り引き出しを開けて彫刻刀を出した。
そしてまた美術室に入り彫刻刀を隠しながら彼女に近寄る。
そのまま、名前さんの前で立ち止まった。
『…………?』
「名前さん」
『なぁに?黒子くん』
「名前さんが好きです」
キョトンとした顔でボクを見上げる彼女を押し倒した。ゴトンと音がして彼女はいたそうに顔を歪めたその隙に彫刻刀を喉元に突き付けた。
「でも君はボクを見てくれない…」
『ま、まって!黒子くん!!』
「ボクを見てくれない君なんていらないです」
喉元に突き付けた彫刻刀をぐっと刺した。
『い…痛いよ!止めて!!』
真っ赤な背景が広がり名前さんがボクの制服を掴み握り締めた。
「やっぱり名前さんは綺麗ですね」
頬に流れた涙を親指で拭い一回刺した彫刻刀を抜く。血が一気に溢れ、ボクは彫刻刀を振り上げ傷口に何度も刺した。彫刻刀の刃は短い。何度も、何度も刺した。最初はしなかった音がして、名前さんが動かなくなった。
目を虚に開けたまま事切れたのである。
ボクは彼女の首筋に伝う大量の血を舐め、抱きしめた。
「名前さん、ボクだけを見てください…」
名前さんを抱きしめたまま寝転がり自分の手首を傷つけた。
本当にボクの存在が
消えるまであと
5秒…
title…ピュア
『殺されちゃう十題』より
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