■ ツンデレは彼女です。
「ツンデレなんてあまり居ないっスよね」
黄瀬がボールを弄りながら言った。
「居ますよ。結構、普通に居ます。…例えばボクの彼女とか」
「黒子っちの彼女がツンデレ?」
「はい」
黄瀬は空気をプスッと噴き出し、冗談がキツいと笑う。
「だいたい黒子っちに彼女なんて居ないっスよね?」
「居ますよ。名前を呼んだら、どこからでも走ってきますよ。半径500メートル以内なら」
黄瀬はもはや大爆笑。そこに緑間がやってきた。黄瀬の肩にテーピングされた手をポンっと置いて溜め息をついた。
「俺の上を行く女だそうだ。恐らく範囲は体育館全体なのだよ」
「緑間くん、なんの話ですか…。話題がズレてます」
黄瀬は笑うのを堪えて緑間にボールを渡した。
「緑間っちがオールコートなら、黒子っちの彼女のスリーは体育館全体って、キセキの世代と張り合えるんじゃないっスか!?」
「恐ろしい女なのだよ」
口々に勝手なことを言うものだから黒子は呆れてしまった。
「黄瀬くん。誤解です。彼女はスリーポイントなんてしませんし、バスケもしません」
緑間はまだスリー云々と語っている。
「え!?じゃあ緑間っちを上回ってるってのは」
「ツンデレ度です」
「黒子!早くその女を呼ぶのだよ!!決着をつける」
つかみ掛かる緑間を避けながら黒子は大声で叫んだ。
「名前さぁーん!!!!」
体育館全体に響き渡り、赤司が何事かと振り返る。
「テツヤ、今は休憩の時間だよ」
赤司は優しく言う。
「すみません。でも名前さんを呼んだらやる気が倍増するんで」
「………。やる気が出るならいいよ」
赤司は業務に戻って行った。
黄瀬はずっと入口を見ている。
「黒子っちの彼女来ないっスよ?」
「一応、半径500メートル以内なら来るはずなんですが」
「流石だな。相棒が呼べば地球の裏側からでも来るのか」
緑間は緊張から冷や汗をかいていた。
「緑間っち、少し冷静になって考えて欲しいっス」
黒子は帰ったのかもしれません、と残念そうに呟いた。
『よんだ?』
黒子の影からひょっこり現れた女子生徒は黄瀬と緑間を驚かす。
「名前さん!会いたかったです」
ぎゅう、と抱きしめられている、名前と言う女子生徒は顔を真っ赤にした。
『べ、別にテツヤが呼んでたから来たわけじゃないんだからね!?』
「(ツンデレきた――――!!)」
「貴様が名前だな!?俺とスリー対決するのだよ」
緑間がボールを突き出した。
「名前さん、キスしてください」
『は!?あたしテツヤが嫌いだからするわけないじゃん』
「(可愛いっス)」
「聞いているのか!?」
***
放課後。すっかり暗くなった帰り道で黒子と並んで帰っていた。
名前は泣きそうな顔をしている。
「名前さん、どうしたんですか?」
『テツヤが…、嫌いとか嘘だからね……』
体育館での話を気にしていたみたいだった。
「知ってますよ」
こういう自己嫌悪している彼女も可愛いだなんて思ってしまう。
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