▼ 11月11日の戯れ
11月11日午前11時11分はポッキーの日の賜物である。
つまりチャンスなのだ。黒子は放課後の廊下を歩きながら計画を思い出した。
無心になって、食べ続けろ!!それが計画。全く以て完璧である。
小さくガッツポーズをして、名前の教室の引き戸を開けた。
「お待たせしました」
自分の席で本を読んでいた名前が顔を上げる。
手元の栞を挟んで、席を立とうとする。それを止めようと黒子はストップと言った。
『テツ?』
座り直した名前が黒子を不思議そうに見つめた。
黒子は構うことなく、傍の椅子に座ると鞄からポッキーを取り出した。
「ポッキーゲームをしたいんです」
真顔で言い切った黒子が、なんだかおかしくて名前がプスリと噴き出す。
同じく、鞄からポッキーを取り出すと、黒子に渡した。
『ポッキーゲームじゃないけど、一緒に食べようと思ってたんだ』
黒子はポッキーの箱を受け取ると、お礼を言った。
黒子の手元にはポッキーの箱が二つ。
「ただ食べるのも良いですけど、やはりここはポッキーゲームでしょう」
まったく譲る気の無い黒子を名前は冷たくあしらった。
『はいはい』
サイドフックに掛かる鞄に手をかけようとした。帰る気満々である。
「待ってください!ポッキーゲームをしましょう!!」
黒子は鞄を取ろうとする名前の手を掴んだ。
名前は嫌だと言うが、黒子には納得がいかない。
「お願いします」
黒子がこれでもかと言うほどに頭を下げた。名前は戸惑いながらも、黒子に一回だけと呟いた。
***
サクサクと黒子がポッキーをかじる。その様子を名前はしばらく眺めていたが、だんだん近くなる顔や、音が鼓動を早くさせた。
シャンプーの香りに混ざる汗くささや、吐息、息遣いが近づく度に名前はだんだんと腰を引いてしまい、へっぴり腰になっていく。
『ふぐっ』
変な掛け声と共に、ポキンとポッキーが折れた。
名前が追ってしまったのだ。
『あ』
小さな破片を噛んで飲み込むと、黒子も残りのポッキーを食べ終えたようだ。
「ボクの勝ちですね」
名前はバツが悪そうに目を逸らす。しかし黒子は罰ゲームです、と呟いて名前の頭を掴むと唇に唇を重ね、チョコで甘くなった舌を入れた。
ほんの一瞬だったが、名前の内心は爆発寸前だった。
「第二ラウンドです」
もう一本、ポッキーを取り出した黒子が珍しく笑っていた。
一回だけと言ったのに、名前はキス欲しさにまた参戦してしまうのだった。
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