▼ 芥川ごっこ

※拍手Log
※羅生門ごっこの続編
※単体でも読めます


 肌寒くなった屋上で名前、黒子、火神が教科書を片手に突っ立っていた。

「では、配役を発表します。男役は火神くん、女役は名前、ボクは鬼の役です」

 伊勢物語の芥川。以前、羅生門で演劇?らしきことをしたが、迷走したきりである。
 今回は芥川ということで、配役を発表していた。
 名前はてっきり黒子が男役をすると思っていたので、素っ頓狂な声を上げた。

『え』

「何か文句ありますか?」

『いや、ないけど』

「いいからやろーぜ。これで定期考査の点数あがんだろ?」

 口々に言うと、顔を見合わせ、教科書に視線を落とした。

「まぁ、文句がないなら良いです。それでは始めましょう」

 黒子が火神に向き合うと、口語訳を言う。

「芥川に出てくる男はイケメンなのですが、身分の差により女と結婚が出来ずにいました」

「下民なのか?」

『違うよ。男の身分自体は高いけど、女の方がもっと高いってこと』


「そういうことです」

 火神が納得したところで、ストーリーを解説し始めた。

「それでは話の流れを確認しましょう。男は夜に女の屋敷に忍び込みます。まぁ夜ばいですね」

『言うな』

「そこで女を盗み出すのです。追っ手から逃れるために芥川という川まで逃げました。因みに芥川は直訳するとゴミの川ですね」

『だから余計なことを言うな』

 火神がご丁寧にノートに黒子の言ったことをメモしていく。
 やる気があるのは良いが、情報を聞き分けてほしい。

「女は草の上に乗った露を見て、あれは何?と男に問います。女は露を見たことないくらいに屋敷で大切に育てられてきました」

「へぇ、監禁されてたのか」

『ちげぇよ』

 ひらがなで監禁とノートに書いた火神の頭を叩いた。

「男は女を連れてぼろぼろの倉に来ると、倉に女を入れて守ります。男は倉の前で弓と矢を持って追っ手が来る方へ構えていました」

「おぉー!かっけぇ」

「しかし、倉の中には鬼がいました」

 黒子の言葉に空気は緊張する。火神はそわそわと耳を澄ました。

「女は鬼にあっけなく食べられてしまいます。女の悲鳴は雷と雨音に掻き消されて男には届きませんでした・・・・」

 シンとした空気の中に、火神が絶望の顔をしていた。

「食われちまった・・・のか?」

「はい」

 どれだけ感情移入しているのか、火神の唇は震えていた。

「まぁ、ストーリーも解ったことですし、さっそく演技してみましょう。ボクもはやく名前を食べたいです」

 最後の一言で火神と名前は同時に黒子を見た。
 空気が台なしである。

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