▼ 風呂上り

 黒子が頭をガシガシと乱暴に拭いた。タオルからピョコピョコと覗く髪の一房からは、水が滴り落ちていた。
 名前は黒子の服を借りて、ソファに体育座りをしてテレビを見ていた。

「いきなりでしたね」

 窓の外は土砂降りだ。名前はバスタオルを頭からかぶったまま、振り返る。

「ほんと…」

 名前の猫目が見開く。黒子はやかんに水を注いでいた。
 名前が固まるのも知らずに、コンロに火を点ける。

「名前、いまお茶を沸かしますからね」

 待っていてくださいと、黒子が言うと、固まったままソファに座っている名前の隣に腰を下ろした。

「名前?どうしたんですか?」

 黒子が首にタオルを掛けながらキョトンとする。
 名前が目を逸らすと、後ずさった。

「ちょ…、えと、そのさ、目のやり場に困るっていうかさ…」

 目線を黒子から右斜め上45度をキープしながら言う。

「え?」

 黒子がキョトンとしたあとに、にやりと笑った。名前が、まだ口をモゴモゴと動かしているが、構わずに上半身を乗り出すように前進する。
 黒子の白い腕が、名前を挟み打ちにした。ついでにソファに押し倒して見下ろす。

「ボクは風呂上がりは服を着ない派ですから」

 そんな事を言って名前に迫った。黒子が身につけているのは首に掛けたタオルと濃紺のボクサーパンツだけである。白い肌を惜しみ無く露出させていた。

「知らないから!そんなの!!服着てよ!!」

「嫌です。風呂上がりはどんな時期でも暑いですから」

 確かに黒子の頬や首、指先は朱色に染まっており、額には薄く汗が光っている。

「暑くても着て!」

 黒子から視線を逸らす名前の顎を掴む。思わず目をつむった名前は黒子の胸板を押し返した。

「嫌です。それにボクの服を着て照れてる名前とかレアじゃないですか」

 それを聞いたとたんに名前の猫目が見開く。黒子が笑って見下ろし、髪から滴り落ちた雫が名前の頬にパタリと落ちた。


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